同級生



と言う俺の考えは甘かった。
「おい、悠里」
「…………………」
翌朝、声を掛けた俺を無視して悠里はさっさと歩いて行ってしまった。
後から来た海里が俺の隣に並ぶ。
「ごめん、功祐……一晩寝れば直ると思ったけど……甘かったみたい」
申し訳なさそうに謝る海里を責める気はなかったけど、それでも結構俺の心は重症だった。
「いや、いいって……俺が悪かったんだし」
「ごめんね、ホント役に立たなくて……少しでも機嫌がよくなるようにって、お弁当の中身も悠ちゃんの好きなものばっかりいれたんだけどさ」
食べ物につられるほど、アイツは単純バカじゃないだろう。幾らなんでも。
でも、アイツが好きなものがあるのに機嫌悪いってのも怖いもんがある。
よほど根に持ってるらしいな……はぁ……。
自然と溜息が零れた。
「そんだけ怒ってるって事だよな。まぁ、とっとと謝っちまうか」
「うん、それがいいと思うよ」
それから学校についた俺は何度も悠里の姿を探したが、どうやら避けられているようでなかなか捕まえられなかった。
「あーくそっ!これじゃあ話もできねーじゃねーかよ!」
その場で頭を抱えてうずくまりたいのを必死に堪えて、頭をかきむしった。
すると、ちょうど目の前にあった教室の中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「これって悠里と……朗先輩?」
自治会室の前に来ていたらしく、そこの扉の中からは楽しく談笑する二人の声が聞こえてきた。
「こんなトコにいたのかよ……」
肩を落としてから、様子を伺うために少しだけ扉を開けて中の様子を覗く。
べ、別にやましい事なんかないけどさ!随分楽しそうにしてるから、なんか入っていきにくいんだよ。
やっぱり、悠里もああいう先輩の方がいいのか?
俺みたいな子供じゃなくて、先輩のような大人っぽい男の方が、さ。
「ですよね〜。だからアタシ、ムカついちゃって!」
「まぁ、でも功祐にも思うところがあったんだろう。実際、アイツが言ってることも一理あるしな」
「む〜、朗先輩まで〜……。じゃあ、先輩に聞きますけど、アタシのいいトコってなんですか?」
なんだ?昨日の話をしてんのか?
つか、お前ら近寄りすぎじゃねーか?
ここからだと少し見えにくいものの、結構朗先輩と悠里の距離は近い。会議室用の机に丁度並べられたイスに隣同士で座っている。前が空いてんだから、どっちかがそっちに座ればいいだろ。
「悠里のいいところか……そうだな。しっかりしているところや、元気のあるところ、それに弟思いなところなんかは俺は好きだけどな」
「え?」
さすが先輩。ぽんぽん悠里のいいところが出てくる。
でも、そんなの俺だって……いや、俺のほうがもっと悠里のいいところ知ってんだぞ。
俺は少し悔しくなってドアノブを強く握った。
っておい、悠里!なのになんでそこで顔を染めるんだよ!
「あ、有難うございます。お世辞でもやっぱり嬉しいです……」
「いや、お世辞なんかじゃない。本当にそう思ってる」
「あ、え、あ……な、尚更有難うございます」
赤くなりあわあわとなっている悠里に、クスッと笑いを洩らす朗先輩。
なんだこの甘ったるい雰囲気は!!ちきしょー!もう我慢できねぇ!
これ以上二人をくっつけてられるか!
俺が当に踏み込もうとしたその時
「あれ、功祐じゃねーか。こんなトコで何やってんだ?」
「さ、悟先輩!!」
後ろから声を掛けられて、俺は自治会室の中に入るタイミングを逃した。
よくよく考えたらこんなトコで立ち往生してしかも立ち聞きしてる俺って、確かに変かもしれねー。
今まで気付かなかったけど、明らかに周りに視線が痛い……。
「なんか用か?」
「いや、あの……ちょっと」
まさか立ち聞きをしていたことを先輩に言えず、俺はなんとも言えない。
「なんだよ、ドアにへばりついたりして…。変な奴だな」
「ハハハ……」
どうやって誤魔化すべきか……とりあえず笑っておこうと思ったから笑ったが、逆に変な顔をされてしまった。
当たり前か。俺みたいに自治会に関係ない奴がこんなところにいるのが、大体おかしいもんな。
だから、何の疑いもせずに笑った先輩は無論俺の心情を解るはずもなく、俺のことなんかお構いナシにドアを開けてしまった。
「おーい、朗。客だぞ、客」
「ん?なんだ?」
朗先輩が俺を見て、次に悠里を見た。その顔には微かに笑みが浮かんでいる。
「あぁ。俺宛の客じゃないみたいだな。ほら、悠里」
「………………」
悠里は俺の顔を見ると途端に黙り込むと、ムーッとしたまま俺の脇を通り過ぎていった。
「おい、悠里待てって!」
「ついてこないでよ!」
走り出した悠里の後を追って俺も走り出す。すると、後ろではわけの解らないと言ったいでたちのまま悟先輩が立ち尽くし、そしてその隣で朗先輩が笑っていた。
「なんだぁ?あの二人」
「いずれ、解るよ。お前にも、な」

「待てって!」
追いかけて行ってやっとその腕を捕まえたとき、そこはクランチの寮前だった。
「離してよ!」
「離したら逃げんだろ」
「当たり前でしょ!」
くそ、全くコイツは……!
でもまぁ、やっと二人きりで話が出来るんだ。
意地でも離してやんねーぞ。
「なぁ、とりあえず俺の話を聞いてくれって」
「い・や・よ!」
「あのなぁ〜……」
天邪鬼め……相変わらず素直じゃねーな!ったく。
「昨日は俺が悪かったよ。頼むから機嫌直してくれって」
「ふんっ!知らない」
「悠里……」
俺が謝ってもコイツは見向きもしない。相変わらず顔を背けてこっちを全然見ない。
仕方ナシに俺は溜息をつくと、悠里を睨んだ。
「あのなぁ、いい加減にしないと俺も怒るぞ?」
「もう怒ってんじゃない」
「まだ怒ってねーよ」
「嘘」
「嘘じゃないって」
「だったら、なんでこんなに強く腕握るのよ」
「え?あ、ごめん」
俺が手を離すと、相当痛かったのか、悠里は手首をさすりながら俺を睨んできた。
「お前、なんでそんな怒ってんの?確かに俺が悪かったけどさ」
「解ってるんじゃない」
「だから、そういちいち突っかかってくんなよ!話が続かないだろ!」
「なによ!そんなに嫌なら他の女の子と話せば良いでしょ。海里みたいに気立てが良くて、優しくて素直で可愛い子と!」
「悠里!」
段々話しているうちに、俺も腹が立ってきた。どうしたらここまでひねくれて物事が取れるんだ!
「そんなに海里が良ければ幾らでも結婚すれば良いでしょ!」
ここでまた海里を持ち出すのか!?どこまで蒸し返せばきがすむんだ!
「はぁ!?お前本気でいってんのかよ!」
「最初にそういったのはアンタじゃない!」
「だからアレは小さい頃の話だろ!いつまでも引きずるな!大体男同士で結婚なんざ出来るわけねーじゃん!」
「どーだか。海里可愛いから、案外本気だったりして」
つーんと顔を背けた悠里。
………俺の中で何かが切れた。
「いい加減にしろよ!」
怒鳴って手短にあった木に悠里を押し付けると、ビクッとして悠里が俺を見た。
「ホント海里と違って素直じゃないな、お前は!なんでそんな怒ってんだよ!」
「……っきょく、海里なんじゃない……!」
俺を睨んだ悠里の目溜まった雫、悠里は自分でも無意識にだろう、涙を零した。
「海里海里って……!そればっか!なんなのよ!いつもアンタはアタシを見ないじゃない!人を見れば海里って……!アタシは悠里だもん!海里にはなれないんだから!」
悠里の涙を見て頭の冷えた俺は冷静にいまの言葉を考えた。そして、その意味に気付いて呆然と悠里を見る。
「悠里、お前……それって……」
「なんでだか知らないけど、ムカつくのよ!アンタに海里と比較されると!気にするなって言うくせに、アンタが一番アタシと海里を比較するし!」
「ご、ごめん……でもまさかお前がそんな風に思ってたなんて知らなかったからさ」
「アタシだって知らなかったわよ」
無自覚で怒ってたって事かよ……。
でも、もしも俺の予想が正しければコイツの気持ちはきっと……。
俺は嬉しくなって悠里の体を抱き締めた。
赤くなってわたわたしている悠里を気にもせず、俺は抱き締めた力を更に強める。
なんだよ、ちきしょー。そういうことか。
「な、何するのよ!」
「安心しろよ、俺は昔から海里じゃなくてお前を見てきたんだ。これからも、な」
「こ、功祐??」
俺にここまで言わせたんだ、悠里の気持ちも聞かせてもらうぜ。
「な、なんだか解らないけど、とにかくアンタはアタシと海里の比較はしてないわけね?」
確認を取るように尋ねた悠里に俺は力強く頷く。
「あぁ」
「なーんだ、そうなんだ。それ聞いたらなんだか怒りが収まってきたわ」
途端に、ホッとしたような悠里の声。
「へ?」
それに気が抜けてついでに腕に込めていた力も抜けてしまうと、悠里は笑顔を見せる。
俺の腕から抜け出した悠里は上機嫌に歩き出した。
「ほらー、早く行こうよ功祐!」
おまっ……!ヒトの一世一代の告白をサラッと流しやがって……!しかも自覚ナシか?あんだけ解り易くいったのに、未だに気付いてないのかよ!!
「おい、悠里……お前、本気で鈍すぎだ……」
「んー?何か言った??」
「いや、もういい」
コイツがどんな人間か俺だって解ってたさ。忘れてた俺が悪いんだよな。
あぁ……神様のバカヤロウ……!俺の純情を返しやがれ!!
「ふーん……変な功祐!」
笑った悠里の顔を見たら、なんかもうどうでも良くなった。
まぁいいか。まだ時間はあるんだし、いつかまた言えば。
誰にも渡す気はねーしな。
小さい頃からの俺だけの女の子。
俺とお前のこの距離を誰にも邪魔はさせない。


いつか思いを伝える日まで……。



Fin



同級生だけど、お互いに子供だよねって話。
やっぱり気付いてないほうがいいと思う。ってか、多分ここまで鈍くないとは思うけど
こっちのほうが萌えますよね!


  20050922  七夜月

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