Jealousy



201…201……と。
あった!ここだわ!廊下をこそこそと歩いて、アタシは一番奥の部屋の前にたどり着いた。
裏口から見事に侵入したアタシは、運良く見つからないルートを歩いていたらしい。
今のところ、なんとか誰とも会っていない。非常にスリリングなシーンには何度もあったけど。
(何故かジェイク先生が見回りだか知らないけどこっちに向かって歩いてきたり、自動販売機の陰に隠れてたら生徒が何人もやってきてジュース買うし)
とりあえず、ここまでの道のりはOKだ。
さて、本当にここが悟先輩の部屋なのか、アンリ情報じゃいささか不安が……いや、多大な不安があるけれど、とにかく入って見なきゃ解らない。
アタシはそっとドアを押して、部屋に人の気配がないのを確認してから中に入った。
鍵は……開いてる。無用心だなぁ〜お風呂に行くなら閉めた方が良いのに。
ま、しょっちゅう閉め忘れるアタシが言うのもなんだけど。
部屋に入って、まずアタシが目にしたのはいつも悟先輩が身に付けてるサッカーのユニフォーム。悟先輩の背番号をアタシが間違うはずがない。ここは正真正銘悟先輩の部屋だ。ホッと安堵してアタシは部屋の中を物色しようとした。
その時。
「あ〜いい風呂だった!久々に入って気持ちよかったぜ!な、朗」
「そうだな、今日はわりかし、混んでなかったしな」
「そうそう」
きゃゃぁああああー!!!!!
悟先輩(+朗先輩)のお帰りですか!!??え?ええ??マジで!?もう!!!???
ど、どうしよう!とにかくどこかに隠れなきゃ!!
はっ!こんなところにまさに隠れろといわんばかりに天使の笑顔をしたクローゼット発見!!
あたしは他に隠れるめぼしい所を発見できずそこにすぐさま飛び込んだ。
「あれ?」
「どうした?悟」
「いや、なんか今物音がしたような……」
き、き、きき気のせいです!!
クローゼットに入って滅茶苦茶な体勢をとりつつあたしがそう心の中で唱えると、朗先輩がクスっと笑った。
「悟、お前窓開けっ放しだぞ」
「あ、本当だ。じゃあ風かな」
「そうみたいだな。机の上にあったプリントが散乱してるしな」
「あぁ、わりぃ!」
クローゼットの中じゃ一体二人がどんな顔してどんな風に会話してるのかさっぱりわからない!
でも声が近付いているのは解ったので、あたしは慎重に呼吸を繰り返した。出来るだけ気配を殺す。
「にしても、文化祭が終わってようやくひと段落だな」
「あぁ、肩の荷が下りたよ」
「忙しかったモンなぁ〜自治会長様は」
冗談めかして言う悟先輩の笑い声が聞こえてきた。
あぁん!悟先輩の生声!いつ聞いてもカッコいい〜〜!!って、萌えてる場合じゃないのよ、アタシ。
でもダメ……。やっぱり好きな人の声を聞くだけで顔が緩んじゃう。
意識をしっかり持つのよ、悠里!ここでばれたらどうしようもない!
「茶化すなよ、そう言うお前こそ、悠里とはどうなんだ?」
ぎゃふん!!
いきなり核心突いた朗先輩の言葉にアタシは出来るだけクローゼットにへばりつく。
「お、お前こそ茶化すなよな!」
照れたような悟先輩の声に、何故だかアタシまで照れてしまった。
本人のいる前で(まぁ、隠れてるけど)こういう会話が繰り広げられるのはなんというか……その……やっぱり恥ずかしいものがあるわけで……。
アタシは自分でも解るほど顔を赤くした。
「いいから教えろよ。最近、悠里もよく自治会室に顔出すようになったし、あれはお前に会いに来てるんだろ?」
「そ、そんなことは………」
「悠里もなかなか良い子だよな。大人しめで静かな海里とはまた違って、その場に居るだけで雰囲気が明るく変わるって言うか」
「お、おい朗!まさかお前悠里に惚れてないよな!?」
慌てたように言う悟先輩に、朗先輩がクスッと笑った。
「さぁ、どうかな?」
カァアアア!!
自分で益々顔が赤くなるのが解った。悟先輩もカッコいいけど、やっぱり朗先輩もカッコいいよぉ〜!!
キュンキュンと胸をキューピッドの矢が打っていると、興奮しすぎて前に出すぎたアタシの足元にあったダンボールが、途端に音をたてた。
アタシは真っ青になる。
「何だ?」
訝しげな悟先輩の声が聞こえた。
ど、ど、どうしよう!!
こんなところに隠れてるのがばれたら、現在から末代まで痴女と罵られ生きていかなきゃならないじゃないの!?それはいや!ってぇ、そう言う問題じゃないから!
そもそもそんなことばれたら確実に悟先輩に嫌われる!冗談じゃないわ、それだけは絶対避けなきゃ!
あぁ!でも一体どうしたらいいの!?助けて誰か!へルプミー!オーマイゴッド!!
悟先輩がこっちに近付いてくるのが気配と影で解る。
……もうダメ!見つかっちゃう!
アタシがぎゅっと目を瞑った時だった。
「朗、悟。夜分に悪いな。ちょっといいか?」
ジェイク先生の声が聞こえて、二人の注意がアタシのいるクローゼットじゃなくて、部屋のドアに向けられた。
な、なんだか知らないけど……助かった……?
「サード、どうした?」
朗先輩が扉を開けるのが気配でわかってアタシは心でホッと溜息をついた。
「この間の文化祭で使った予算関係についてのプリントをまだ持ってるか?」
「あぁ、それならクローゼットに。悟!どれだか解るよな?ちょっと出してくれないか?」
「おう、解った」
ノォォォォオオオン!!(byアンリ)
アタシは心で絶叫した。
助かってないじゃないの!むしろピンチじゃないの!神様仏様お代官様〜!!誰でもいいんで助けて下さい!
心で言ったアタシの願いは叶わず、クローゼットは無残にも開かれた。
「…………………」
アタシの姿を目で認識したのか、悟先輩が固まった。
「え、えへv」
思わずあった視線に、アタシはヘラッと誤魔化し笑いを浮かべてみるが、効果は果たしてあったのか。
つか、普通にビックリするよね。アタシでもびっくりするよ。うん。
すると悟先輩は勢いよくクローゼットしめて、その勢いが余りすぎてたためアタシはその鼻っ柱をクローゼットの扉にぶつけた。
「ブッ!」
アタシは鼻を押さえたが、なんとか持ち堪えた。でもじんわりと目じりに涙が溜まっていくのは止められない。
さ、さすがサッカー部エース……!力も半端じゃないわ……(涙)
悟先輩は声でわかるほど冷や汗かいて朗先輩に告げた。
「ごめん、朗!あのプリント一旦会計合わせのために海里に渡したまんまなんだ!」
「海里に?何で海里になんか……」
「いや、海里のクラスの予算と合計が合わなかったらしくて、前に一度貸してくれって言われてたんだ。ハハ!今思い出した!と言うわけだサード!悪いな!俺が明日海里に返してもらったら渡しに行くから!」
「そ、そうか……?」
悟先輩の動揺ップリに、ジェイク先生も呆気にとられていると言うか、何と言うか……とにかく驚いてる様子だった。声だけってのもなかなか他人の表情が解るんだなぁなんてぼんやり現実逃避しかかってるアタシ。
「うん。ホントごめんな!」
「悟……なんかお前、変だぞ?」
「何でもない!ちょっと暑さにやられたかな。うん、そうだ。朗、悪いけど自販機で何か買ってきてくれないか?俺ちょっと海里に電話するからさ」
「あ、あぁ……まぁそれはいいけど……」
「ホントわりぃな、サードも朗も!じゃそういうわけで!」
バタン!
無理矢理押し出したのだろう。悟先輩がクローゼットの前から消えて、暫くしてからご丁寧に鍵まで閉めて戻ってきた。
えーっと、ご苦労様です。
「悠里、お前こんなとこでなにやってるんだ!」
再びクローゼットを開けた悟先輩は驚きとも呆れともつかない声で私を見た。
が、鼻が未だに痛かったアタシはそれどころじゃない。
「しゃとるせんぱい、いたひれすぅ〜(悟先輩、痛いです〜)」
「あ、わりぃ。勢いよく閉めすぎたか?鼻ぶつけたのか?」
「もう平気れすけど〜」
アタシは押さえていた鼻から手を離すと、悟先輩を改めて見上げた。
ココまで来ると、もう言い訳とかそう言う問題じゃなくて、開き直ってくる。
「えっと、こんばんは。悟先輩」
「あぁ、こんばんは。ってのんびり挨拶交わしてる場合じゃないだろ!何でこんな所にいたんだよ」
「それには長く長くとにかく長い理由があるのです」
アタシが本気の顔でそう悟先輩に告げると、頭をガリガリとかいた悟先輩は溜息をついた。
「まぁ、とにかく今日は家まで送る。ここにいたら、じきに朗の奴が戻ってくるからな」
「すみません」
立ち上がった悟先輩はアタシに背を向けるといきなり上着を脱ぎだした。
キャー!先輩の背筋がアタシの萌えツボをバシバシ刺激するわ!!ってこれじゃあほんまもんの痴女じゃないの!しっかりなさいアタシ!
「あの……悠里?」
「何ですか?」
振り返った悟先輩にアタシが期待満々な顔で見返すと、先輩が困ったように言った。
「背中からバシバシとなんか視線を感じるんだが、悪いけど、後ろ向いててくれるか?」
「あぁあああ!アタシったら気がつきませんで!すみません、向きます!」
アタシの熱烈光線はバッチリと悟先輩に届いていたらしい。
何やってるのよアタシのバカ!これじゃあ『アタシは腐女子デス』と本人に向かって通達してるようなもんじゃないの!!
カァッと頬を染めたアタシはすぐさま後ろを向いた。
でもあの背筋は忘れられない……。
先輩の背筋を思い出しながら暫くアタシが萌え萌えしていると、先輩が再びアタシに声を掛けてきた。
「よし、いいぞ悠里」
「は〜い」
悟先輩の方を向いて、アタシは再び顔を赤くする。何と言うか……やっぱり、文句なしに悟先輩はカッコいい。私服の先輩を見るのがすごく嬉しいしカッコイイと思ってしまう辺り、アタシも女だなぁと思ってしまうわけで……って、自分でも何考えてるのか解らなくなってきてる。
「悠里?どうした?」
「い、いえ!何でもありません」
「じゃあさっさと行くぞ。朗が戻ってくる前にここを出るからな」
悟先輩に手を引かれて、胸が高鳴る。こんな形で手と繋ぐ事になるなんて思いもしなかったけど、ちょっと嬉しいハプニングかもしれない。
先輩はさすがと言うべきか、アタシより寮の事を知ってるだけあって、アタシのようなスリリングな事はなかった。ただ、朗先輩がジェイク先生に捕まっている所に出くわした時は思わず驚いて隠れたけど、先輩がアタシを庇うように抱き締めてくれたのはかなりおいしい出来事だと思うあたり、アタシがどれだけ図太いか思い知った。先輩の胸で自分の心臓が早鐘になって動くさまをどうか聞かれませんようにと願いつつ、アタシ達は二人が去るのを待った。
「行くぞ」
十分辺りに人がいない事を確認した悟先輩に連れ立って、アタシも寮を後にした。
嗚呼……!さようならクランチ!男の子の……腐女子の楽園……!
クランチに別れを告げるとアタシは先輩の後について走った。
学校を出て、暫くしてからようやくアタシ達はその足を止める。肩で息をしつつ(アタシだけ)、先輩の後をついていく。
「で?そろそろ訳を聞かせてもらおうか?」
「はい?」
「今更誤魔化せねーよな」
先輩が意地悪く唇の端を上げて笑い、今までその存在を忘れていたアタシは思わず青くなった。
あぁ、そうだ。先輩に一体どういったらいいのか……。

選択肢:その1
素直に謝る。
選択肢:その2
なんとか更に誤魔化す

さぁどうしようか。って、今更誤魔化してもしょうがない気がする。やっぱりここは素直に謝っておこう。
「すみませんでした。勝手に入って忍び込んだりして」
「その事はもういい。それよりも何で俺はお前が俺の部屋に入ったのか、その理由が知りたいんだ」
「え〜それはですねぇ〜そのぉ〜」
まさか本人目の前にして海里と浮気してませんか?などと訊けるわけはないのでアタシはとっても困る。
なんとか別の理由を上手く見つけようとしたが、追い詰められたせいか頭が混乱して上手い理由がなかなか見つからない。
「か、海里がまたストーカーに狙われてるんじゃないかと思いまして、その犯人を突き止めるべくアタシは勇猛果敢にも男子寮に……」
「で?本当の理由は?」
ばれてーら。つか確かにこんな理由じゃ悟先輩達の部屋にいた意味が解らないよね。
悟先輩はアタシに最後まで言わすことなく笑顔で尋ねてきた。
……ちょ、ちょっと怖いかも。
「……悟先輩と海里が街中で仲睦まじく歩いているのを見たって言う人がいて……もしかしたら悟先輩、海里と浮気してるんじゃないかと思ってその証拠を探そうと思いました」
誤魔化せないと解ったアタシはもはやなす術もなく洗いざらい喋ってしまった。
結局当初の目的は達成される事なく全く無駄足に終わったわけだけど。
アタシが一気に喋りかけると、黙って話を聞いていた悟先輩がものの見事に噴いた。
「あっはははは!!海里と俺が……う、浮気!?あはははははは!!」
「ちょっ!な、なんで笑うんですか!アタシ真剣なんですよ!」
「あはははは!だってそんな事絶対あるわけないだろ!あいつも俺も男だぞ!」
「そんなの解らないじゃないですか!」
「ははっははは……!」
まだ笑いが収まらないのか、アタシが何を言っても笑い続ける悟先輩。なんだか、ここまで笑われてるのも悔しいものが……。
「寮にまで忍び込んで苦労したみたいだが、残念だけどそれは違う。まぁ確かに海里に付き合ってもらって買い物には行ったけどな」
ようやくおちつきを取り戻した悟先輩はアタシに向かって笑顔を見せた。
そしてポケットを探るとポケットの中から長細い紙包みを取り出した。
「え?」
「悠里にやるよ」
先輩から渡されたそれを受け取って、アタシは包みを開く。
そして息を飲んだ。
「先輩、これって……」
中に入っていたのは星の形をした可愛いネックレスだった。
先輩を見れば、照れているのか鼻の頭をかいて視線を泳がせている。
「なんつーか…俺さ、そういうのよくわかんないし、海里だったら双子だし悠里の趣味とかも解るかなと思ってさ」
それで、海里に買い物に付き合ってもらったってこと?
…………………。
どうしよう、アタシ今めちゃくちゃ嬉しいんですけど。
まさか先輩からこういうのをもらえるだなんて思ってなかったし、くれる動機もわからない。アタシの誕生日ならまだまだ先の話だし……。
「どうしてこれを?」
「………俺もさ、こういうの渡すの柄じゃないかなとは思ったんだけど。どうにかして俺の気持ちを形にしたかったんだ」
「先輩……」
照れた姿で話す先輩はそれはもう可愛くて思わずお持ち帰りしたかっ…抱きつきたかったけどなんとか思い直してその場に踏みとどまる。
「有難うございます、嬉しいです!」
精一杯の笑顔でそういった。
すると先輩も笑顔を見せてくれて、アタシは天にも登る気持ちになった。
嗚呼、幸せとはこういう事なのね!まさに今が幸せの絶頂!腐女子の楽園もなかなかよかったけど、やっぱり少女漫画なオチを狙うならこうでなくっちゃ!!(狙ってません)
……って、幸せに浸ってた所だったけど……なんか忘れてるような。
「しまった!家で海里が待ってるんだ!うわぁ〜どうしよう、早く帰らなきゃ……」
あわわ、寝ないで待ってるって言ってた海里。今の時刻はもうすぐ23時を回る所。やばいよ〜これ以上は心配かけちゃうよ。そしたら本当に今度から外に出してもらえなくなるかも。
「俺も寮に戻らないと朗に怪しまれちまうからな。とりあえず今日は帰るか」
先輩の出された左手を掴み返しながら、笑顔で頷くアタシ。
先輩はそういうとアタシを家まで送ってくれてその後帰っていった。ついでに、朗先輩に言い訳をってことで海里から会計のプリントを貰って帰っていった(あれって口実じゃなかったんだ)
ちなみに、アタシを先輩が送ってくれたのはたまたま駅で先輩と会ったからって事にしておいたら、素直なアタシの弟君は信じ込んでくれましたとさ。
ふっ、単純っつーかなんつーか……素直すぎるのも問題よ、海里。
でもま、いっか。
とりあえず、浮気はなかったしいい思いもしなかったけど、先輩が幸せをくれたから今日の事は無駄骨じゃないかなと、思い直すアタシなのでした。
我ながら現金だけど、やっぱり浮気されてるよりかは愛されてる方がいいもんね。

後日談。
あれから海里に買い物に行った詳しい事と真相を尋ねると、海里は小さく笑ってから頷いた。
「確かに悠ちゃんのためにネックレス選んだよ。先輩って本当に何を送ったらいいのか解らなかったらしくて、危うくそこら辺のお兄さんに明らかに偽者と解りそうなネックレスを大金出して払いそうな勢いだったから、僕が手伝いを申し出たんだ」
海里の例え方がなんだか笑えたけど、それだけなりふり構わずになってくれてたってことなのかな。
更に愛が深まってアタシの心は先輩への好意に傾いたことは秘密なのです。



fin



悠里ちゃんが壊れてます。でも原作が壊れてるから(失礼)、結構頑張ったと思うんですけどね。
うふふ、可愛いなぁ。こんな素敵な誤解した話とか無いのかなぁ?

   20050922  七夜月

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