〜家族水入らずでショッピング編〜 皆さんこんにちは 春日望美もとい有川望美です。 知盛とマサオの娘の望美です。なんでやねんとツッコミ加えたい気持ちはよくわかります。っていうか、わたしが誰より一番加えたい。 今日はわたしのママンである知盛と買い物に行くらしいです。 久々の予定がない日曜日でゆっくりうだうだ眠れると思ってたのに、何を思ったのかチモに拉致られました。パジャマ姿で、歯ブラシを咥えたままです。普通に娘を拉致る神経がわかりません。本気で常識をわきまえないママンに望美ビックリです。帰ったらガチンコマジバトルっきゃないなと思いつつ、現在は後部座席に座って助手席知盛&運転席将臣両名を眺めているのでした。 (口に歯ブラシを突っ込んだままなので、随分間抜けです。ついでに赤信号で止まっているとき、近くを通った赤毛の小学生らがこっちを指差し「あの姉ちゃんはブラシ咥えたままだぜ、ダッセー!」「あの、きっと何か訳があるんだと思う。そのように指を指すものではない」とかなんとか会話をしていたので、起きたらあの赤毛をシメることにする) つーか、口の中が大変なことになってきてるんで、マジ勘弁してください母さん。はあ……早く停まれ。 そんな感じで願っていると、いつもいくデパートの駐車場に連れて行かれた。こりゃしめた、さすがにパジャマで出歩くのはちょっと……わたしの分の洋服をママンに買って着てもらって、……違う!誤字だ!今恐ろしいこと想像しちゃったよ、やだなもう。買ってきてもらって、その隙にわたしは近くの公園で歯磨きをして……どこかのホームレスさんみたいだなちくしょう。これも全部、ママンのせいです。 「さて着いたぞ望美ー。今日は親子水入らずで買い物だな」 状況を一切無視した爽やかな将臣くんの掛け声がより一層わたしを不憫なモノとして感じさせる。チクショウ、マサオのくせに!日光●軍団で働いてしまえ!(無論演じる側で) 「んんんーん、んんんんんんんんん(その前に、服着たいんだけど)」 「くっ……何を言ってるのかわからんな」 お前のせいだ。 なんとかしてよおかーさん。 「とりあえず望美、お前車降りてトイレで口濯いでこいよ。このままじゃ会話も成り立たないからな」 仰るとおり、会話も成り立たない現在のこの状況を打破するには、やはり口をなんとかしなくてはならないのだ。 そうしてわたしはデパートのトイレに駆け込み、口を濯いだ。トイレってのが果てしなく微妙だったけど、この際背に腹は変えられない。そろそろ口に含んだものを我慢しすぎたせいで頬が痛くなってきてたし。 ようやく口がスッキリして気分よく車へと戻ると、両親は揃ってわたしを待っていた。 「うっし、戻ってきたな。じゃあ出かけるか」 「って、待ってよ。わたしパジャマのままなんだけど……!」 「安心しろ、ちゃんと買ってある」 そうして知盛が取り出したのは、全身ピンクで統一しろと!?と言わんばかりのピンクいリボンフリフリのゴテゴテした服だった。 これがいわゆるピンクハウスというものなのだろうか。ワンピースなのになんでこんなリボンばっかりついてるんだろう。 「……コレを着ろと?」 「可愛いだろう」 「服はね。でも、ヒトには向き不向きとか分不相応とかそういった言葉があるのは知ってる?」 そういったわたしの言葉にカラカラ笑ったのは将臣くんだった。 「安心しろ、ちゃんと試着はしたぞー。バッチリ似合ってた」 「誰が?」 「俺に決まっている」 「したの!?」 知盛が!? これを!!?? 当然だろう何を言っているんだコイツはという目でこっちを見ているママンを、わたしは 「……チャレンジャーだね」 「ふん、何がだ、店員が嬉々として勧めてきたぞ」 「ああ、店員もチャレンジャーだったんだ……」 いや、チャレンジャーというより己に正直なだけか。男にフリフリワンピースを喜んで勧める店員がいる日本の将来は大丈夫なの? っていうか、さすがにコレ着るの抵抗あるんですけど。 じーっとその服を見ていたら、母さんが仕方が無いな、という感じで溜息をついた。 「着ないというなら、俺が着る」 「ちょっと待て!!!!」 「ああ、いいな、きっと似合うぞ」 「着るなぁああああ!!!!!!」 ニコニコしながら(半分悦りながら)肯定するな父!おかしいでしょ、フツーに考えて変でしょ!? 自分が着ることとこんなピンクのフリフリを着ている野郎と歩いている姿を天秤にかけて、わたしは即座に突っ込んだ。嫌だ。両方嫌だが、変態と歩いているところを見られるのが何より一番嫌だ!!!! 「わかった、着ますよ!着ます!」 いいや、あとで将臣くんに普通の服買わせよう。そうだ、そうすればいい。親が変態だとバレるより我が身の恥だ。一時の恥だ。 苦心の末ピンクのひらひらを着用したわたしは、覚悟を決めて車から降りた。 デパート中で奇異な目で見られることを覚悟したわたしだが、大して視線を集めずには済んだ。ホッとするもこんなところ知人に見られたらアウトだなと思いつつ、デパートの中を歩いていると先を歩いていた二人が不意に花屋の前で足を止めた。 「重衡…か」 「おや、兄上ではありませんか。こんなところで何をしてらっしゃるんです?」 アウトだと思ったそばから銀に出逢った。なんだこのご都合主義的展開!ギャグのお約束とかどうでもいいから!ここは普通に素通りする場面じゃないの!? なんだってこんなときに限って会うかな!狙いすぎだ! 「家族水入らずで『しょっぴんぐ』だ。なあ、将臣」 「そうそう、たまにはいいだろ」 「ええ、それはいいですね。神子様も随分とお可愛らしい格好で……唯一気になるのが泰衡様並の眉間の皺くらいですね」 「……銀、わたしが普段からこんな服を着る人間だと思う?」 「いいえ」 即答かよ。 「じゃあ眉間の皺には突っ込まないで」 「ハイ、わかりました」 銀はいつもながらに空気の読める男だった。微笑で全てをかわしていくのはある意味才能のなせる業だろう。 「それはともかくお前は何してんだよ」 「わたしですか? アルバイトですよ」 「教師のアルバイトは禁止じゃないの?」 「わたしですか? 社会奉仕ですよ」 「何事も無かったかのように言い直したよこの人。しかも大して意味変わってないし」 「神子様、働くことはわたしの趣味なのです、ですから個人の趣味についてはどうぞご容赦ください」 突っ込めば素晴らしい趣味をお持ちの銀はハンカチで涙を拭きながら同情を誘うポーズをとる。別にわたしは学校に言いつけるつもりもないけど、働くのが趣味ってどんだけ奉仕したいの。 「それはともかく、こちらのお花を宜しければお三方にプレゼントさせていただきます。いつもお世話になっているお礼です。素晴らしい家族水入らずのショッピングになるといいですね」 「ありがとう、銀」 それは小さなひまわりだった。今時期栽培という方法により季節に関係なく花は見られるが、やはり季節の花というのは格別だ。わたしはその可愛さに思わず、頬を緩める。 そしてまた、わたしと同じく頬を緩める人間が一人。 「……弟からの『ぷれぜんと』か、たまには将臣以外から貰うのも悪くない」 「身内限定な、他の野郎から貰ってくんなよ?」 「クッ…馬鹿な心配だ。お前以外の誰から貰えというんだ」 「ま、そうだよな。俺以外にお前にやる物好きはなかなかいないな!」 「恋文ペン字のフォントで思わず照れ隠しですか兄上。褒めてるのかけなしてるのかイマイチ解りませんがラブラブで羨ましい限りです。おや、神子様いかがなさいましたか? 何故そうまるで見てはならないものを見てしまったと言わんばかりの顔をして距離を置いていられるのですか? 神子様? ああ、だんだん神子様のお姿が遠くに……みーこーさーま!」 散々デパートの中を回ったにも関わらず、衣料品売り場には一切近付こうとしない二人に業を煮やしたわたしが強硬手段に出ようとすると、将臣くんから愛のデコピン(たんこぶ付+患部から煙が上がる)というおしおきを貰い(母さんがせっかく選んだ服なんだから悲しませるようなことをするな、ということらしい)、どんだけ母親思いなんだよわたしと思いながらも仕方なく洋服を諦めて知盛に付き合ってると、食品売り場でまたもや遭遇してしまった。 「あ」 「随分と面白い格好をしているな」 そういった高校校医をわたしは無言で蹴り上げた。 「望美、スカートのときに蹴りはまずいだろ」 「つっこむべきところはそこではない。まず私を蹴り上げたことが問題だ」 将臣くんののんびりした声に、脇へクリティカルヒットした蹴りに呻きながら、高校校医こと泰衡さんは起き上がった。どうでもいいけど、高校校医ってひらがなにすると「こうこうこうい」でなんかくどい。泰衡さんの眉間の皺並にくどい。 「まったく、教師を蹴り上げるなんてどういった教育を受けているんだ、親の顔が見てみたいものだな」 「貴方の眼前にいるのがそうですが、何か?」 嫌味だとは解っていてもそう切り替えす。もちろん、この言葉に関してダメージを受けるような繊細でチキンな性格をしているわけではない泰衡さんは不躾な視線を将臣くんと知盛に向けた。 「あ、なんだよ?」 「俺に惚れたか……?」 「マジか!? でも幾ら望美の学校の先生だからって知盛は譲らねーぞ!!」 「ふむ、なるほど。さして子が子ならば親も親だな」 「ちょっと、こんなのと一緒にしないでよ!?」 勘違い野郎二人を放置して、泰衡さんはこっちを振り返った。ちなみに、わたしは全力で今の言葉は否定する。わたしはまだ普通だ!何がなんでも普通だ! 「…………まあ、いい」 「なに今の沈黙! めちゃくちゃ気になるんですけど! とにかく、こんなところで何してるんですか?」 「休み明けの身体測定を行う際に必要なものを買いに来た。一台壊れた体脂肪計があるのだが、その代わりを発注しに来ただけだ。どこかの誰かさんが壊してくれたお陰で休日出勤の羽目になった」 その言葉を聞いて、わたしはいやなことを思い出した。ちなみに語尾の言葉についてのコメントは敢えて控えることにする。 「うわっ、もうそんな時期なんだ……嫌だなー。ケーキとか今日から少し控えようかな」 「今更どうなる体型でもあるまい。もっとも例えばズボンに腹の脂肪が乗ろうが乗るまいが私には関係のないこ」 「それ以上言ったら、ネオロマンスキャラとしての除名をしますよ。女の子の真剣な悩みをいとも簡単に口に出して侮辱するなんて、今度鼻の中にチューブわさびねじ込んでやりますからね」 「いつも思うが、神子殿の発言自体ネオロマンスの主人公としてどうなんだ」 「●●の穴にねじ込むとか●●●の先端に塗りたくるとか言うより、マシでしょう」 「そこまでいくともはや女としてどうかと問いたくなるが」 「ふっ…望美、外でそんなことを言うな。先生が照れているだろう」 「照れてない!」 「今更親ぶるな!」 泰衡さんとわたしのユニゾンが綺麗に重なった。 「家の中ならいいのか」 「問題なし」 「あるだろう、大きく」 疲れた。正直にコイツらの相手をするのは疲れる。ちなみにわたしはそれを泰衡さんも感じていることは知らない。 そこで泰衡さんと別れたわたしたちは無事に(?)買い物を済ませて家族水入らずのショッピングとやらを見事完遂した。 どんな試練だ。出来ればもう二度と一緒に行きたくはない面子である。 「あ、敦盛さーん……とと、ヒノエくん寝ちゃってますね」 「ああ、神子。ヒノエに何か用だったか?」 縁側でのんびり茶を啜っていた敦盛と脇でのんびり寝転がっていたヒノエを発見して、望美はにんまりと笑った。 「いーえ、好都合です」 「?」 「ふっふっふ、わたしを侮辱した罪は重いよ赤毛くん。あ、敦盛さんすみませんがちょっと向こう行ってて貰えますか?」 「それは構わないが……神子?」 「秘密です」 口許に手を当てて可愛らしくウィンクされてしまえば、敦盛も何もいえない。言われたとおりに立ち上がって、何も知らずに寝息一つ立てずに眠っている親友を横目で見ながらその場を去った。 数分後、ヒノエの悲鳴らしきものが屋敷内に響き渡って敦盛は首を捻ったという。 そして、更に首を捻ってる人間がここに一人。 「おかしいなあ、わさびもどきが一本足りないぞ……ここに置いておいたんだけどな」 わさびもどきとは、譲が家庭菜園で偶然の産物で作り上げたわさびと似たような同じ味のする食物である。 ただし、ハバネロもビックリな辛さで香辛料として相当刺激的なお味であるのだが(そのため使用する際は本来のわさびの量よりも遙かに少なめに使用される)、その事実は譲しか知らない。 夕飯の仕度をしている譲は数が足りないわさびもどきを見て、疑問を隠せなかった。 更についでに、後日に再びわさびもどきが一本紛失して、ヒノエと同じく犠牲者が現れたことは追記しておく。 了 20101007(再掲載) 七夜月 |