お正月 2007 「というわけで、無事に今年を終えることが出来ました!イエー!」 「まだ終ってねぇよ」 紅白が終った瞬間に騒ぎ出した望美に、脇から冷静にツッコミがくわえられる。ソファでテレビのさぶちゃんと一緒に熱唱していた白龍の神子は鼻息荒く白の優勝を祝っていた。 「やっぱ白龍の神子だけに白が勝つのも当然よね」 と、わけのわからない自論を持ち出して胸を張っている。 それを呆れて見守る八葉面々。だが、少し年越しという一大イベントを前にそれぞれがワクワクしているようにも見える。 「さて、脳内に貯まった煩悩をどっかに飛ばすために、鐘を突きに行っとく?いっとく?」 「テンションたけぇよ。つーか、お前だけだよ、そんな煩悩の塊みたいな人間」 ゆく年くる年を見ていた朔が、鐘をつくというのはこのことかしら?と尋ねてくる。望美はそれに対して首を大きく縦に振った。 「そうそう、煩悩の神様が舞い降りて今年一年欲望に忠実な人間になるように……」 「大きく違います、先輩」 「煩悩の神様が降りてきてどうすんだよ」 「白龍の親戚かもしれないじゃない」 「神子、わたしには親戚はいないよ?」 ゆるい笑顔で白龍が神子の言葉に異論を唱えた。 譲の眼鏡が怪しく光り否定する、エプロンをつけてお盆に人数分のそばを持ってもどってきた彼は、それを一人ずつに手渡していく。 「どうぞ、年越しそばです」 「神子、これはどういうものなの?」 にこにこと譲から手渡されたお椀を手にした白龍が望美の隣に座りながら無邪気に尋ねる。その他面々も、ダイニングテーブルへと座っていく。 「年越しそばって言ってね、これ食べない人は年越せないんだよ。だから、白龍もちゃんと食べるんだよ?」 望美が笑顔でそういうと、白龍は健気にも頷いた。それを見て、ツッコむ気力が失せた将臣は同じくテーブルについたアダルト組の相手を始める。ティーンズ組は望美の周りに座りテレビを囲んでいる。これから年越しカウントダウンライブが始まるので、望美のテンションは異常なのだ。 「で、どうするよ? 初詣は日が出てからでいいだろ?」 そう切り出した将臣は事情通としてのアダルト組だ。譲はちゃっかりティーンズ組に混じって望美の世話や、他の人の世話をしている。台布巾を握ってテンション上げ上げ状態の望美の椀から零れた汁を拭いたり、白龍が不思議がっていることの説明に徹したり、望美にちょっかいかけようとしてるヒノエを牽制したり、神子のテンションと反比例して「穢れた私が神子と共に新年を迎えるなどと…」と一人テンション盛り下がってる敦盛を叱咤激励してる望美の暴走を食い止めたり、朔とお雑煮談義を白熱させたり、まさに世話焼き女房だ。 「そうですね、こんな日ですから夜更かししてもいいとは思いますけど」 「うん、あんまり連れまわすのは多分良くないよ。ハメを外してる人は、きっと望美ちゃんだけじゃないだろうし、お酒に酔った人とかに絡まれてもね」 景時が眉をひそめれば、リズヴァーンもそれに同意する。 「うむ、今夜くらいはとも思うが、危機回避出来るのならば避けるのもまた一つの運命だ」 「やーやーやー♪やーやーやーやー♪」 「もしくは、初日の出を見るというのは? 早い内に起きて、その後に初詣に行くのもいいと思います」 弁慶が少し考えて提案したことには、わりと周りにも好評だった。隣に座ってる九郎も頷いている。 「確かに、それはそれでいいな。新年を祝うのに初日の出というのはなかなかだ」 「ああ、もう何でもいいよ。んじゃ、そうすっか?」 「イェイイェイイェイイェイイェイ♪ウォウウォウウォウウォウ♪」 「時間はこっちは6時半くらいか?」 「東京では6時51分って言ってましたね」 「んじゃ、6時にここ出発して、浜まで出るか」 「ちかごぉろぉわたしぃたぁちはぁ〜い〜かんじぃ〜♪」 「俺もそれでいいぜ」 望美の隣を占領していたヒノエが振り返り同意した。 将臣は我慢できなくなって、鏡餅の上に飾ってあった蜜柑を望美の頭目掛けて投げた。 「うるさい」 「あっ!ちょっと何食べ物投げてんの!? 白龍の親戚の穀物の神様が起こるよ! 祟られるよ!!」 「神子はどうしても私に親戚が欲しいんだね? 解った、作るよ」 「作れるものなのか!?」 フル笑顔装備の白龍はさすが神様、どうやって親戚を作るつもりか知らないが、九郎はびっくりしてそばを取り落とした。 「へーそりゃ楽しみだ。で? どう祟られるって?」 「将臣くんなんか、鼻からそば食べる呪いにかかってしまえ!!」 「地味に嫌な呪いだな、それ。つーか、お前それこそ食べ物粗末にしてんじゃねぇよ。絶対無理だろ。どんなブラック芸人だよ」 「まぁまぁ、そういうわけで、明日の集合は有川門前に5時55分ということで」 「五分前行動か、素晴らしい心がけだ」 「ともかく、一番危険なのは先輩ですよ。一人でちゃんと起きられますか?」 譲の心配そうな眼差しに、望美はからからと笑ってひらひら手を振った。 「やだな〜譲くん、大丈夫だって」 「譲、そんなに心配ならオレが一緒に姫君のところで寝るから安心しなよ」 「余計心配だ! お前、今日は俺の部屋で一緒に寝ること決定だからな」 「ヒノエくんと譲くんは仲良しだねぇ〜よし、じゃあわたしたちも仲良くなるために一緒に寝ましょうか敦盛さん!」 譲の表情がピカソ顔負け、ムンクの叫びになったのが兄の眼に映り、将臣は目頭を押さえたくなった。 「反対! 断固反対! 敦盛は今日は兄さんの部屋で寝るんです!! 兄さん、異論はないですね!?」 「……………好きにしてくれ」 一方、望美はそんなこととも露知らず、隣の朔の手を握り花を飛ばしている。 「えー敦盛さんは将臣くんが先約済みなの? まぁ、しょうがないか、朔一緒に寝ようよーこんな日だしさ」 「ええ、貴方がいいのなら勿論。でも突然お邪魔して大丈夫? お家の方にご迷惑がかからないかしら?」 「大丈夫〜もう親にはちゃんと言っておいたし、布団も敷いてあるんだよ」 「そう、じゃあお言葉に甘えちゃおうかしら」 「うん、一緒に冬コミ新刊読もうね! いいの手に入ったんだよ〜」 「つーか、寝ろよ」 早起きだって言っているのに、この娘は何を言っているんだ。と、そろそろ本気で呆れかけてきたころ。 時計の針が一時を指した。 くるっぽーと、望美特製鳩時計(男爵ヒゲ装備)が時間を告げて、望美がハッとしたように立ち上がった。 「何はともかく、コレ言わなきゃ一年は始まらないよね」 きょとんとしている周りの人に向かって、望美はペコリと頭を下げた。 「去年はお世話になりました。今年も宜しくお願いします。みんな、あけましておめでとう!」 その言葉に、その場に居た全員の頬が緩んだ。 「あけましておめでとう」 口々にでたその言葉に、望美も満面の笑みを浮かべた。 「今年も一年、わたしぶっ飛ばして行くから、よろしく〜!」 不穏なその言葉に、朔を除いた全員の笑顔が凍る。 今年一年もまた望美に翻弄される年が始まることは決定してしまったようだ。 了 20070101 七夜月 |