悲壮の雫




 僕はどうしてこんなにも弱い人間なんだろう


「泣いて、いるんですか?」
 その一言に僕は驚き、隣りで寝ていたであろう彼女を見る。
 もうとっくに寝ていると思っていたが、様子を見る限りそんな気配は感じられない。
 それに、僕は涙を流してはいなかったのに、なぜそう思ったのか。
「どうしてそう思うんです?」
「ごめんなさい、弁慶さんこの頃辛そうで気になっちゃったから……」
 それでつい口をついてしまったらしい。
「謝らなくていいんですよ。僕を心配してくれたのでしょう?有難うございます。
 でも僕は平気ですよ。泣いてもいませんから、安心してください」
 笑顔を浮かべる事を忘れずに彼女にそう告げると、彼女は一瞬複雑そうな笑顔を浮かべた。
「心配するのは当然です。だから、何かあったら言ってくださいね」
「君は……いつまでも変わらずに優しいですね」
 僕の言葉に今度は彼女が驚いた様に僕を見る。
「違いますよ!……私はそんな風に言って貰えるほど優しい人間じゃないです。
 ただ、貴方に何でも話して欲しい、それで助けられる事があるなら、他の誰でもなく私が助けたい。……そんな独占欲の混じった自己満足だから」
「それでも、僕は君のその気持ちは優しさだと思います」
 その可愛らしい独占欲は、僕の比にならない。
「本当に醜いのは僕の方なんです」
 信じたい、だけど信じていられない。
 いつか、僕の目の前から彼女は消えてしまうんじゃないかと、いつもそんな不安に身を包まれている。
 夜毎彼女と肌を合わせても、その不安は消えることなく僕の胸を締め付ける。
 帰らせたくない、消えさせたくない。
 そのためには君をここに閉じ込めて、どんな方法を使ってでも僕無しでは生きられなくしてしまえばいい。
 そんな非人道的なことだって、平気で考えてしまう。
「弁慶さん?」
「すみません、今日はいつにもなく弱気みたいです」
「弱音は吐いていいんですよ?じゃないと、聞くばっかりじゃあ、弁慶さんが疲れちゃいますから」
 僕の頬をそっと包み込んで、彼女は穏やかに笑った。
 月の様にぼんやりと僕を……やわらかな光で照らしてくれる。そんな気がした。
 そんな彼女が恋しくてたまらない。

「まいったな……」

 抱くほどに彼女無しでは生きられなくなっているのは僕の方だ。
「こんな弱い僕も、受け入れてくれますか?」
 驚いた君にも構わずに勢いに任せてその体を抱き寄せる。
「君を愛しています」
 返事の代わりに深い口付けを求めて、彼女の口を封じた。解りきっている事と、そう思いたくて……。

 そして僕は今日も、彼女を繋ぎ止めるために、彼女との夜を重ねる。
 例え、溺れていくのは僕の方だったとしても、僕にはこれ以上どうすれば良いのか解らない。
 なのにこんな愚かな自分を見せたくはなく、こうやってまた彼女の目を欺くのだ。
 本当に自分が変わったと思えたのは、幻だったのか。
 僕は今もその答えを探し続けている−−……。



 了





   20050926  七夜月  

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