H.B.



「まさおみくんっ!おたんじょうびおめでとう!」
 カラーコーンのような青と水色の水玉三角帽子を被った望美に、赤とオレンジの水玉三角帽子を被った将臣はサンキューと答える。
 この三角帽子に不満が無いわけではなかったが、母親からの強制命令ともなれば、将臣も被らざるを得ない。今日の主役は自分であるはずなのだが、そこはそこといったところであろうか。
 とにかく、そんなわけで、今日は将臣の7歳の誕生日である。
 ご丁寧にも誕生日会を開いた将臣の母親と望美の母親に、少しの照れくささがあったものの、将臣も嬉しさを隠せない。
 家族から、そして望美の両親からプレゼントも貰えてうはうはといったところであろうか。
 そんなさなか、料理も食べ終えとうとう念願のケーキを食べるときになって、急に望美が将臣を呼んだ。
「あのね、のぞみからもプレゼントあるの。もらってくれる?」
 そして望美が背中からそっと取り出したのは、いびつな紙粘土の人形だった。
「なんだコレ?」
「ウルトラメン!!」
「これが?」
 どう見たってウルトラメンには見えない白い塊。目の大きさも手の長さも全然違うし、これでバランスよく立っている事が奇跡に見える。
「あのね、のぞみおかねないから……いっしょうけんめいつくったんだけどあんまりにてなくて……やっぱり、そんなのいらないよね?」
 望美にも自分が作ったものが不恰好であるという意識はあったらしい。しゅんと項垂れてしまった。
 そんなことない、上手く作れてるって。とはお世辞にもいえない出来である。けれど、将臣は望美が渡したウルトラメン人形をギュッと両手で握った。
「やっぱり、べつのものをあげるよ」
 そういって望美が取り戻そうと差し出した手から、将臣は背中に隠した。
「これでいい。へただけど、これがいい」
「いいの?」
「おまえのつくったものだから、これでいい。なんどつくりなおしたって、きっとかわんねーよ」
「うぅ……」
「……もらえてうれしいよ。サンキューな」
 珍しく将臣が照れたように言うので、望美は満面の笑みを浮かべた。喜んでもらえたという実感が湧いたようだ。
「ううん、おたんじょうびおめでとう!」
 将臣の笑顔を見て、望美は今日何度目かのおめでとうを告げた。

 その人形は、十年経った今も将臣の机の上に陳列されてあの日の思い出を色鮮やかに甦らせている。





「んっ……」
 声が聞こえて目が覚める、腕枕をしていた手をかいくぐって、目の前には見慣れたつむじがあった。寒かったからなのかは知らないけど、ぐいぐいと身体を寄せてきたらしく、寝ている間に俺は相当壁際へと寄せられていたようだ。背中に冷たい壁の感触がして、思わず溜息が出た。
 聞こえた声は寝息だったようだ、顔を覗きこんでもまだ瞼は閉じたままで口許は幸せそうに微笑んでいる。
「ふふ……けーき…いっぱい……」
「ったく、小学生じゃあるまいし、ケーキなんかで喜んでんなよな」
 夢ではたくさんのケーキを食べてるんだろう、口がもぐもぐと動いている。ああ、身体はこんなにも成長したってのに、いつまで経っても中身は変わらないままだな。そんなコイツが俺は愛おしく、大切だ。
 いつかに俺が忘れてきたもの、全部持ってるこいつが居る限り、俺は俺でいられる。俺の記憶はコイツと共に存在する。コイツが生まれたこと即ちそれが俺の存在意義。
「誕生日おめでとう」
 聞こえるように耳元で囁く。するとくすぐったかったのかふふっとまた笑い声が聞こえた。
 冷たい壁は勘弁だと、またコイツを腕に乗せ布団の中心へと戻る。
 きっと冷えた身体もすぐにまた体温を取り戻すだろう、今夜はずっと抱きしめているから。
 始まった今日という一日、わがままお姫さんの思うがままに一緒に過ごす大切な一日に、きっとなる。






   20080919  七夜月


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