【参】 「今日も楽しかったですね〜。敦盛さんって本当に強い」 朔が始めた賭け事ゲーム(not金銭)の部活は、敦盛もそろそろ慣れてきた。最初は手加減をしてくれていたのだろうが、今では部内でも敦盛の強運は知れ渡っている。言いだしっぺの朔筆頭、ヒノエ、弁慶、望美とも口が閉じないほどの強運で勝ち抜ける。そんなわけで、今日の掃除当番を最下位のヒノエに任せて、敦盛は帰宅をしているわけである。 「いや、運がいいんだ。昔から、あの手のゲームについては運が良くて……」 「運も実力のうちっていうじゃないですか」 「……ありがとう」 望美の笑顔と言葉に照れて敦盛は微笑んだ。するとどうだろう。望美はあっと声を上げて敦盛の手を引いた。 「そういえば、私の秘密基地にまだ敦盛さんを案内してなかったですよね! 丁度いい機会だし、今から行きませんか?せっかく早く帰れたことだし」 敦盛の返事を待たずにぐいぐいと手を引っ張っていく望美、敦盛は為すすべなく従う。そうして歩き続けて十数分。 「これが、秘密基地……なのか?」 「そうですよ、これが秘密基地。見てくださいこんなに素敵なものがいっぱぁい!!」 蕩けそうな笑顔を浮かべながら目の前の夢の島を見つめる望美に対してどんな言葉をかけてよいのか解らずに敦盛は押し黙ってしまった。 それもそうだ。確かにここは夢の島だが、名前とは裏腹にゴミ溜めをそう呼ぶことは暗黙の了解。 「今日は何か無いかなぁ〜……はっ!、あんなところに可愛らしいポンタくん人形発見!!」 望美が指したのはお世辞にも可愛いとは言いがたい、二足歩行の狸の置物だった。妙に目がでかく目つきも悪い、口許にはタバコをくわえ、更に何故か鉄の袈裟を被っている。どこをどうしたら可愛らしいのか、敦盛には見当もつかない。 「私ちょっととってきますね! 敦盛さんはここで待っててください!」 「えっ、神子……!?」 望美が夢の島の中心部まで行ってしまうと、入り口で呆然と残されてしまった敦盛はどうしたもんかと考える。怪我したら危ないからと止めようとしたのに、望美は見事なステップで危険物を避けきってしまう。 そしてあっという間に中心部に辿り着くと、ごそごそと例の狸の置物を掘り出そうと頑張っている。 だが、狸の置物は他のゴミの下敷きとなっており、取り出すまで時間がかかりそうだ。 「おおっ今年もやってるね〜。望美ちゃんのゴミ漁り」 いきなり後ろから声をかけられて、敦盛はビックリして振り向いた。 「あっは、ごめんごめん。驚かせちゃったかな〜。俺は梶原景時フリーカメラマン兼クリーニング代行店店長だよ。ちなみに後者はあくまで遙か3らしさを出すためのオプションらしいから、この作品では関係ないんだけどね〜」 爽やかに笑った景時と名乗る男のその明るい気質に圧倒されながらも、敦盛はなんとか自らも名乗った。 「……景時殿、ですか。私の名前は平敦盛といいます」 「君、見ない顔だね。もしかして、転校生か何か?」 「そうです。少し前にここに引っ越してきました」 「そっかそっか……それじゃあ、チモ流しのお祭りも知らないよね。君が被害者にならなければいいけれど」 聞き逃すことの出来ない単語に敦盛は景時の顔を凝視する。 「君も十分気をつけたほうがいいよ。ここのお祭りって、色々とあるからね……」 気になる一言を残して、景時は手を振りながら去っていった。 残された敦盛は景時から告げられた言葉の意味が解らなくて、頭を悩ます。被害者とはどういうことなのだろうか。 これがもしも笑って言うようなことだったら、敦盛だってあまり気にしたりなんかしないだろう。けれど、景時の目は真剣だった。 【参】 了 【四】 20060814 七夜月
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