序章 広い平原に何処までも続く曼珠沙華が風に吹かれて揺れていた。 さわさわ……。 紅は平野を覆いつくし、鮮烈な赤が視界を凌駕する。 少女はそこで立っていた。 求めるものが無いその場所で、少女は長い髪を揺らして曼珠沙華を見つめる。 少女は声を漏らした。 それは音となり、言葉となり、名前となる。 けれどもそれに返事は無い。 曼珠沙華が音を立てて揺れるだけ。 少女は再び声を漏らした。 今度は名前ではなかった。名前ではなく、呟かれた言葉は謝罪。 少女の瞳から透明な雫が零れ落ちた。
20060623 七夜月
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