それを罪と呼ぶのなら。 大罪とは何か、それは今この腕に抱く少女を独占することにあるのか。 閉じていた目を開いて、那岐は横を向いた。目前で寝息を立てている少女が起きる気配は一向にない。当然だ、無理がたたっているのだ。激務と呼べるほどの分刻みなスケジュール。彼女を縛り付けているのは国への義務でもなんでもなく、ただの優しさ。民が、皆が、幸せで居られるようにとのその優しさが彼女をこうして疲弊させる。 なのに、何故少女は自分の元へとやってくるのだろう。こうして、睦み、愛しさを求める自分が居ることを知っていて、何故。 彼女の首筋には自分がつけた印がある。ささやかな独占欲がつけさせた、彼女と自分の繋がり。彼女を抱くのは自分だけだという大いなる自己主張。こんなことをしていても、彼女の心は優しさで満ちていて、結局は自分のものだけになることがないのを知っている。 那岐?少女の唇からもたらされる自分の名前に、那岐は目を見開いて彼女に覆いかぶさるように体勢を変えた。 かけていた衣が少しずれ落ち、素肌が夜の気配に晒される。少しだけ寒い、肩が冷やりとして那岐は思わず息を吐いた。 愛しているとか、愛しいとか、そんな感情で彼女を見つめられなくなる一瞬がたまに自分の中に生まれる。 それは決定的に自分と彼女が別のものであると認識させられる瞬間。こうして肌を重ね合わせたときなどは特に、触れ合いたいのに触れ合えないそんな相反する感情を那岐は手にするのだ。どこまでも深くつながりたいと願うのに、身体がそれを邪魔する。皮膚は少女を触っても触ることしかできない。すべてがぐちゃぐちゃになって溶け合いたいと思うのに、身体があるからそれは出来ない。だけど、身体がなければまた自分は彼女に触れることすら叶わないのだ。 「千尋……」 起きて欲しい、でも起きて欲しくない。そんな思いで那岐は千尋の名前を呼んだ。 まるで審判を待つようなそんな心持で、那岐はしばらく千尋の様子を眺め続けた。この様子じゃ、千尋は起きない。残念だが安堵の方が大きい。ホッとしたのもつかの間、千尋の瞳が那岐を映した。 「那岐? どうしたの? どうしてそんなに泣きそうなの」 彼女は手を伸ばして、那岐の頬に触れる。 千尋の瞳に映る那岐は泣きそうだった。自分がどうあってもこれ以上千尋に近づけないのを理解してしまったから。身体はいらない、でも身体がないと千尋に触れることが出来ない。ならばもう、千尋とこれ以上近づくことは出来ない。 「なんで、僕らは同じじゃないんだろう」 この問いかけは無意味だと那岐も気づいている。遺伝子上個体生物としてまったくの同種であるのならば、それは那岐とも千尋ともつかない、どちらかの名前で呼ばれ、どちらかの性で生きる。出逢うことすらなかったのかもしれない。 「…………千尋」 不安を駆り立てるのは、この手にこの少女が存在するからだ。少女の存在が臆病という感情を起因させる。那岐は切なかった。胸の奥で締め付けるこの感情は、彼女を抱いたときだけ生まれる不可思議な願い。自分で自分がわからないくらい、この感情は那岐を支配する。とてつもない暴力的な痛みを伴う感情のまま、千尋を掻き抱くことに抵抗と陶酔を持ちながら。 好きだとか、愛しているとか、そんな言葉ではもう救われないのかもしれない、自分にとっての救いなんてもう彼女が帰ってきたことですべて使い果たしたのだろう。永遠にこの感情を手にしながら彼女を腕に閉じ込めるのかと思うと言葉が出なくなった。けれど、少女の目はどこまでも無垢のまま。 「同じじゃなくて、良かったよ」 千尋はポツリとそういった。 「だって同じなら、私はこうして那岐の涙を拭ってあげられなかった」 涙は流れていない、けれど千尋は那岐の頬を擦る真似をした。そして微笑む。 「……泣かないで」 千尋は那岐にそういった。泣いて欲しくないと、那岐が泣くととても悲しくなると、だから那岐は千尋の身体を抱きしめた。 「泣かない、千尋が代わりに泣くから」 那岐は己のうちに生まれた鮮明な欲求に従うまま、再び千尋の唇に自分の唇を押し当てた。 If I call it a guilt I will be a criminal 救いがない自分がたどり着く先は見えない、不安定なまま自分は歩き続ける。だけど、もしも救いがこの先にあるとしたら、それは少女の傍以外にない。 自分だけの知る、自分だけのものの、千尋という名の少女。 呻く声から漏れる微かな歓喜を逃さずに、那岐は縫い付けるように千尋の身体を深く褥に縛り付けた。 了 アダルティ!アダルティ!珍しく暗めにアダルティ! (一気に台無しですねこのコメント/ばかじゃないの) こちらの作品はですね、以前チャットでリクエストを貰ったものの作品のタイトルが使えない!(他の方のもの)となってしまったので、じゃあ別タイトルつけてしまえ!とタイトルを変更してモチーフだけいただいてきた形にしました。 那千祭の「何故僕らは同じではいられないのだろうか」というタイトルを見てピーンときた話です。このタイトルだとそのまんまじゃねーかっ!ってなりそうなんですが、逆にこのタイトルだとまたちょっと別口から攻めたと思います。モチーフだけ貰って、別タイトルつけたのは結果的にこんなお話に収まったからです。 雰囲気小説はたまに書きます。だから読みにくいことこの上ないんですよね、すいません。感情をつらつら書き綴っていくだけなので、嫌いじゃないんですがどう描写しようかとw 文中の英語の意味ですが簡単で解説などいらんって人もいるかもですが、調べるの面倒という方用に一応載せておきますね。 If I call it a guilt(それを罪と呼ぶのなら) I will be a criminal (僕は罪人となるだろう) です。英語で罪っていっぱいあるんだなあと調べてて思いました。なのでこの字を使いました。意図は汲み取ってください(ェ) 20081007 七夜月 |