何があっても




 息を吐けば白く色を変える。そんな世界の中心で、時折自分だけが生きているような錯覚に陥る。
 手のひらを開けば、鈴がチリンと小さく音が鳴った。
 黄金色のそれは大切に磨かれているので、輝きをまだ残している。
 そして表面には小さく、自分の顔が映っていた。
「敦盛さん、何してるんですか?」
 暫くそれをジッと眺めていると、後ろから不意に声をかけられた。
 気配はあったはずなのに、それすら気付かぬほど食い入るように鈴を見つめていたらしい。これでは八葉失格だ。
「……神子か、いや…何でもない」
「鈴ですね。綺麗な音だな…敦盛さんのですか?」
「あ、ああ……昔から、持っていたものだ」
「思い出の品ってやつですね。いいなぁ〜私そういうものってあまりないから」
 こんなものでも神子は喜んでくれるのだろうか。
 鈴を差し出すと、やはり神子は喜んでそれを受け取った。様々な角度から眺めては、ほうっと溜息をこぼす。
「音色も綺麗ですけど、昔から持っていたにしては、随分外見の状態も綺麗ですね……本当に大事にしてるんだ」
 神子の手から受け取ろうとすると、鈴がまた小さく鳴った。
 この音を聞くと、時々自分を現世に留めているのはこの鈴の音なんじゃないかと思う時がある。
 優しい思い出がたくさんつまっている故に、この音色を求める。
 自分が人であった頃のことを。
「確かに、大事なものなのかもしれない。……私にはもう取り戻すことの出来ない、温かいものが詰まっている」
「敦盛さんも十分温かい人だと思うんですけど」
「そんな事はない。私は……間違った存在だから」
「存在に間違いも正しいもないと思いますよ? 存在には必ず意味があるんですから。それに間違ってたら、こうして存在することなんて出来ませんし」
 首をかしげながら、まるで私がおかしなことを言ったかのように、神子は無邪気にそう答えた。
 その答えは神子ゆえの、神子だけの回答。
「…………ああ、神子らしいな」
 いつでも私の存在を受け入れて、決して否定をしたりしない。
 だからだろうか、私は期待してしまうのだ。
 私には到底考え付かない、神子だけの答えを。
 私が想像をしない新たな道を神子が示してくれるのでは無いかと。
「何かあったんですか? 急にそんなこと言うなんて……あ! もしや、また九郎さんに苛められました?」
「い、いや…、そのようなことはないが」
「じゃあ、ヒノエくんにからかわれたとか?」
「いや、そういうわけでもない」
「え〜、じゃあ誰だろう……えっと、えっと……他にいたっけ? 将臣くんとか?」
 苛められたなどと、そんなことはないのに、何故か真剣に考え込んでしまった神子に私は慌てて否定をした。
「神子、私は別に苛められてなどいない。大丈夫だ。私の言い方で誤解させてしまったのだな、すまない」
 この調子でいくと、誰かにありもしない迷惑をかけてしまうことになる。
「いえ、違うならいいんです! 私のほうこそ早とちりしてすみません」
 下げられた頭に驚いて、一瞬たじろぐ。
「神子、私などに謝る必要は無い。どうか顔を上げてくれ」
 神子に頭を下げさせてしまうなんて、と今更ながらに自分の言葉に後悔する。
 神子にこんなことをさせるつもりなど、微塵もなかったはずでも、いつもうまくいかない。
「ふふっ、やっぱり敦盛さんは温かい、優しい人です。こうやって、いつも私を気遣ってくれるから。でも……」
 顔を上げた神子の瞳は真剣で、その唇からは決意の念が見えていた。
「いつかもし、本当に敦盛さんのことを害する人が現れたら、私は何があっても貴方を守ります。それが、私自身であろうと、決して許しはしないから」
 だから、とそこで言葉が途切れ、口の動きが迷った末に閉じられた。
 何かを隠している。
 その動作すら隠すように、次に口を開いたときの神子はいつもの神子だった。
「運命を変えるために、一緒に戦ってください」
 にっこりと、神子は笑った。華の様な、明るい笑顔だった。
 私のもっとも好きとするその笑顔……ふと沸いた疑念がさらさらと砂のように頭からこぼれていく。
 隠し事など、どうでもいい。神子の全てを、私は守りたいのだから。
「ああ、私も貴方を何があっても守ると…誓おう」
 麗しのこの神子を。決して害する存在が現れぬように。
 そう、私自身もこの笑顔を害することのないように。
 いつか神子から離れる最期の時まで、私は何があってもこの笑顔を守りたいから。



 了




 短め志したためか、相当短くなったなぁな、話。
 これはいつのあっつんの話だろうか。きっと十六夜記辺りの平泉は行ってからだよね?だって雪だし。きっとそう、多分そう。ってゆか、降れ雪(ェ)
 これでもう精一杯課題に打ち込める。せめて週一を目標に更新しなくちゃ!  こんなに更新しなかったのは初めて。
 心機一転、頑張ります!

 
   20051218   七夜月

お題部屋 TOP