いつか飛ぶ日まで




 空は蒼くて、どこまでも澄み渡っている。
 自分の未来もこんな感じならいいといつも思っていた。
 限りない自由と、熊野を守る使命。
 全てを手にしてどこまでも、自分なら行くことが出来ると。
 『ヒノエくんは、強いね』
 望美にいわれた言葉を思い出して、ヒノエは笑った。
 「強い、か……そうありたいと、ずっと想っていたけどね」
 でも。
 肝心なところでオレは何もいえない。
 いつも楽しくてつい忘れてしまっていた。
 望美がこの世界の人間ではなく、遠くないいつか…ヒノエの前から消えること。
 帰らないで、ずっと傍に居て欲しい。
 この言葉が口をついて出そうになるのを何度も押さえ込んだ。
 本気でなんて言えないから、余計に冗談交じりになってしまう。
 「姫君、お前の心は今……誰を想ってる?」
 オレじゃ、ダメか?
 お前の傍にいることは、オレじゃ許されないことなのかい?
 口に出せない問いかけは、息として吐かれ空気に溶ける。
 望美を目にすると、強がりで見栄を張る自分が途端に姿を現す。
 一人の女の子に、まさかここまでなるとは思っていなかった。
 楽しくやれてれば、それでいいとも思ってた。
 人を愛することがここまで苦しくなるなんて、ヒノエ自身経験したことがなかったのだ。
 こうして仲間の内にいても、望美とヒノエの距離は近いように見えて遠い。
 夏の熊野では泣かせて傷付けた。
 あれ以来、触れるのを躊躇ってしまう。
 もう、二度とあんな顔をさせたくないと、思ってしまう。
 今のまま、ずっと変わらずに笑っていて欲しい。
 この空を自由に駆け巡るように、望美の心も縛られずに一番の幸せをその手に。
 オレが幸せにしてあげられればこれ以上の幸せは無いだろう。
 けれど、それが叶わないならせめて……。
 「ヒノエくん、どうかした?」
 「いいや、何でもないよ」
 お前の幸せをいつまでも祈ることぐらい、許してくれるだろ?
 心配そうに覗き込んできた望美に曖昧に笑い返し、ヒノエは密やかに心を隠した。
 船に乗って風を切るのは、まるで空を飛んでいるみたいに気持ちいい。
 もしも一緒に飛べる…そんな日が来たら最高だから。
 いつか来るその時まで、本気の想いは心の奥底へしまっておこう。
 いつかなんて来ないかもしれないけれど、今はまだ「いつか」じゃないから。





 なんつか、ヒノエ→神子みたいな(片思い大好物同盟つくりてぇ)。ヒノエの絆の関ルートじゃないことは確かです(笑)
 十六夜ED途中という手もありますが、むしろそれ意識しまくったんですが(爆)
 すっごく切なそうな顔をするところとかイメージしまくりましたもん。

   20060319  七夜月

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