逃避




 白い雪が降り始めていた。
 ここ平泉では大して珍しくないこと。
 だから、景時は持っていた銃を静かに下ろした。
『兄上!』『景時……!』
『景時さん……!!』
 妹と仲間……そして、白龍の神子との完全なる決別。
 胸元の宝玉があった場所には今はもう何も無い。
 その上を手でなぞってみるが、肌をただ滑るだけ。
 もう何もかもが動き出して、止まってしまった世界。
 自ずから選んだことだとはいえ、一抹の寂しさを感じるくらいは神様も許して欲しい。本当は少しでも長くみんなの『仲間』で居たかったけれど、それは景時自身が許せなかった。
 何かを守るためには、何かを切り捨てなければいけない。
 だけど、景時は切り捨てられるものが、自分以外のほかに思いつかなかった。
「ねぇ、君は今……どうしてるかな?」
 最後までこちらを見ていた望美の姿を思い出して、景時は自嘲する。
「こんなこと思っても、俺はもう後戻り出来ないのにね」
 全ては君のために。そうやって格好つけられたら俺も少しはマシになるのかな?
 景時は心の奥で望美を思い描く。きっともう、その目で見ることは出来ない、景時を包み込むような笑顔、少しばかり朔に似た怒り顔、上手くいかない事があるときに見せた子供っぽいむくれ顔。
 どれもどれも、大切な思い出の数々。
『景時さん!』『景時さん!?』『景時さん』
 呼ぶ声が聞こえる。伸ばされた手を掴むと、望美の姿は霧散した。ガラスが砕け散るような音がして、思い出が一つ壊れる。掴むたびに音がした。
 伸ばせない手、伸ばせば先ほどのように望美の姿が消え、また思い出が壊れてしまう。これ以上、失うものを増やしたくなかった。
 手を伸ばさない代わりに、景時は握った。強く強く、その拳を握り締めた。
「ごめんね……」
 謝る相手が多すぎて、誰に謝っているのかも解らない謝罪。景時の手が開かれて、そこに一欠けらの雪が舞い落ちた。
 音も無く景時の体温で溶けた雪は、静かにその形を失い水滴となって景時の手を濡らす。

 一緒に居たいだなんて思わないよ。
 俺は君が幸せになればいいなってそう思ってるから。
 きっと君は、幸せになれる。その資格がある。
 結局悲しませることになっちゃったけど、少しでもその幸せになるお手伝いをさせてくれるかな?
 君に逢いに行くことは出来ないから、この胸の小さな思いを願いに代えて君の幸せを遠くから祈り続けるよ。
 全てが終ったら君や朔やみんなが笑っていられるように。
 俺もそれだけで幸せになれるんだ。
 君が生きてどこかで笑っている事が俺にとって一番大事なことなんだよ。
 大切な君の、大切な笑顔が、もう二度と曇らないためにも。

 ――俺はここにいる。

 雪が溶ける。地面に降り立ち、徐々に積もる中、景時に触れた雪は溶けてその身を濡らす。
 景時の頬に触れた雪が、軌跡となって顎を伝い落ちた。





 なんか象徴の授業を受けてから意識しまくりになってしまいました。わけのわからないことになっている。
 雪の似合わない男景時さん。何故なら腹出してるから(爆)
 あえて彼でこのお題に挑戦。
 なんかお題とあってない気がする。いつものことだけどね!
 心の逃避ってことで!本当はしたいことから逃げ続けてるだけのダメ男くんを演じてもらいました☆
 え、こじつけ? あはは〜そこは往々にね!

   20060817  七夜月

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