01.バスの中で
いつも窓の外を見つめている少女。
出逢ったのは一年前。"あの人"にとても似ていて、目を引かれた。
とはいえ、特に意識していたわけではない。
ただ隣に乗ってきた人間が同じ学校の女生徒の制服を着ていたってだけ。
けれどそれ以来、なんとなく目にするようになった。
隣に来ることもあれば、遠くに乗っている事もある。
特にこれと言って特徴的な女の子ではない。ごく普通の、少女。
だけど、あの人と同じ名前で、同じ瞳でオレを見る。
唯一つの違いはオレの事を"嫌っている"くらい。
なのに。
「こうして目で追いかけてるんだから、誤魔化しようがないな」
腰まで伸びた黒髪を揺らして、今日もまた乗ってくる。
一瞬だけ目が合って、睨みつけられてすぐにも逸らされた。
それだけ。
たったそれだけのことなのに、高鳴る鼓動にワクワクとした心。
「へぇ、これはこれは……」
なかなかだね。決戦日は今日かな。
嬉しさに小さく笑って、口笛を吹いた。
了
後書
ずっとやりたかったツンデレ望美んと余裕綽々なヒノエぽんの話w自己満足ですいません;
20060930 七夜月
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02.苦手科目
とりあえず、苦手科目があるのは人間誰しもしょうがないと思う。
諦めって肝心だよね。
テストなんてもの、得意科目だけやればなんとかなるもんだし。
人生テストで決まるわけじゃないし。
あー、それにしても……。
「藤原くん、キミってこのクラスじゃないよね。何か用?」
目の前に座っているのは藤原湛増……自称ヒノエくん。カッコつけ。
補修で残らされている私に対する当て付けなのか、楽しそうに前の席に座ってこちらを伺っている。
「そうそう邪険にしないでよ。邪魔はしないからさ」
キミの存在自体が邪魔なんだよね。
私は彼が嫌い。誰にでも優しいその軽薄な態度にいつも誰かが泣いている。
平気で人を傷付けるような人、私は大嫌い。
「用が無いなら出て行ってよ。目の前に人が居ると邪魔なの」
「春日、その二問目間違ってる」
「え、嘘……って、そうじゃなくて」
指で指されたからつい教科書と見比べてしまったが、今は問題の成否はどうでもいい。何で私の名前を知っているのかも気になったが、この際気にしない。
話を聞いているのか睨みつけてみると、彼は肩を竦めた。
「美人が睨むと怖いね〜…、そんな顔しないでよ。オレは今日春日に言いたいことがあるだけなんだから」
「なに?」
「オレと付き合ってよ」
…………はい? 今、なんていった?
「オレさ、春日のこと好きなんだよね。大マジで」
いつだって周りに女の子が居るくせに、まだ足りないと。そういうこと?
「……馬鹿にしないでよ!」
気付いたら、教科書その他諸々を藤原くんに投げつけていた。
「絶対ごめんだよ。私、キミみたいな人、大ッ嫌い!!」
鞄があるのも忘れて、私は教室を飛び出していた。
だから知らなかった。私の言葉で彼がふっと笑いを漏らしたことを。
後書
嬉しいのです、彼は初めてまともに相手にされたことが。そして、彼のハートに火がつきましたw
20060930 七夜月
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03.先輩
「ゆーずるくん! 一緒に帰ろう!」
背中から聞こえてきた、いつものように元気のいい声。
その持ち主は隣に並ぶとにっこりと笑った。
「珍しいね、部活ないの。お隣なのにこうして一緒に帰ったり登校したりってなかなかないじゃない? 将臣くんも部活だし」
この人は俺の幼馴染であり先輩。彼女にとっては幼馴染であり、よき後輩って所だろうか。
そんな彼女の様子が最近おかしい。
何がどう、というのはなく。何となく落ち着きが無いというか、イライラしているというか、そんな感じだ。
強い彼女は何も言わない。俺たちに心配かけまいといつも一人で全て抱え込んでいるから。最近では兄さんに頼ることも減ったみたいだ。
「あのね、譲くん。変なこと聞いてもいいかな?」
「変なこと?」
「好きな子とかって……いる?」
これがもし、解って聞いているなら、俺の片思いの歴史はどのような形にせよピリオドを打っていただろう。しかし、彼女はいつだって天然だ。何も解っていない彼女に苛立ちを覚えるが、それより大きな安堵も覚える。この人はまだ変わらない。変わることを知らない。
「告白とかってしたことある? どんな気持ちで告白するの?」
「ありませんよ。でも、告白するとしたら、多分ドキドキして、上手く言葉に出来るかどうか、わからないと思います」
好きな人については深く触れず、俺は彼女の質問に答えた。
「そうか、そうだよね。普通そうだよね。ありえないよね、軽い告白とか。……うん、スッキリした。ありがと、譲くん!」
彼女が何に悩んでいたのか知らない。けれど、俺の答えに満足した彼女は爽快感をたっぷりと含んだ顔で笑った。
本当は想いを伝えたいんです。でも、俺はこの距離が離れてしまうのが怖い。先輩、あと少しこの距離に甘えさせてください。
貴方が困ったら、すぐにでも助けられるこの距離に。
貴方を困らせることの無い、この距離に。
了
後書
実はこっそりと先輩を思っている譲。動かしやすいキャラです。いつもこんな役回りですまんね。
20061001 七夜月
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04.後輩
ヒノエは静かに読んでいた本を閉じた。
窓から見えるのは、先日告白した相手。そして、その幼馴染の後輩らしい。どうやら一緒に帰るようだ。
「う〜ん、いつ見ても可愛いね」
ヒノエにとっては、右半分が邪魔な存在ではあるが、今まで想い人を守ってきた盾であるのなら、許容範囲に思えた。
どうせ、意識もされていないだろう。今も、これからもそれはきっと変わらない。
鈍そうだからな、彼女は。
ヒノエの台詞を聞いたら、譲は激昂してしまいそうだが、事実なので多分文句も言えまい。
後輩の姿を見ると、頬を染めて嬉しそうに話をしている。やはりあの盾も想い人に虜なようだ。
一番近くで見守れる幼馴染の後輩というポジション、だがヒノエにしたらそんなおいしいポジションにいるくせに動かない方がどうかしていると思う。
当たって砕けるのが怖い? その時点で想いの強さなんてたかが知れてる。当たって砕けてナンボのものだ。粉々になってもそれでも強く思い続けるくらいの事をしなければ、手に入らないものもある。
後輩だからって甘えてると、横から掻っ攫っちまわれても知らないぜ?
もっとも、もう遅いけどね。
クスッと笑ってヒノエは、読んでいた本を閉じた。
ガラッと図書室の扉が開いて、下級生の女生徒が入ってくる。
「呼び出したのに遅くなってすいませんでした。あの、ヒノエ先輩……お話があるんですけど」
図書室への呼び出しの用件は薄々気付いていた。
そしてこれから起こる出来事も何となく感づいていた。
きっと明日この噂が広まれば、またヒノエは彼女に嫌われる。
けれど、仕方ない。ヒノエにはもう、たった一人しか見えていないのだから。
「うん? 何かな?」
極上の、女の子が喜ぶ笑顔を浮かべて、ヒノエは思っていたことを心に隠した。
了
後書
彼はモテます。モテキングです。でも、欲しいのはいつだって一人だけ。
20061001 七夜月
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