05.同級生


 将臣はちらり、と視線をずらした。そこに見えるのは同じクラスの男子と話しているヒノエ。
 体育の授業中、この炎天下の中サッカーなんてものを真面目にやる気はないのだろう。まぁ、その辺は将臣も同感なので特に異論はない。ないけれど。
 ちらり。ともう一度将臣は視線をヒノエへと向けてからまた頭をガシガシとかいて視線を逸らした。
 最近、幼馴染の様子がおかしい。何かに気取られていることが多く、そのツケが将臣に回ってくることも少なくない。例えば今日遅刻しそうになった原因も望美がこけて鍵を閉め忘れた鞄の中身をぶちまけバスに乗り遅れたせいだ。
 見捨てるという選択肢もあった。けれど、それをやったらきっと後々望美から多大な報復を受けることは目に見えていて、尚且つ、将臣とてここまで連れ添った幼馴染をそう簡単に見捨てることも出来ず、甘いとは解っていたが次のバスが来るまで一緒に待っていた。幸い、時刻よりも数分早かったバスのお陰で遅刻は免れたが、正直あんなに朝から走るのはさすがにもう勘弁だ。
 将臣はなんとなく、望美のイライラの原因がわかっていた。以前友達から「この前、お前の奥さんが藤原と居るの見たぜー」なんていうふざけたタレこみを受けていたからである。別に望美と将臣は付き合ってるわけでは無いから、望美が誰と居ようが構いはしない。けれど、相手がヒノエと言うのが問題なのである。
 望美がヒノエのことを嫌っていたのは知っているし、だからこそ二人が付き合っているとも思ってないが、けれどヒノエが何かしらの原因を持っているのは間違いなかった。
「はーぁ、面倒くせぇなぁ。ったく……」
 どう転んだって将臣に厄災が降りかかるのは目に見えている。
 でも、それより何より。
「つまんねぇ」
 幼馴染の心を締め付け続ける原因が別の男にあること。
 それが将臣にとって一番面白くない理由だった。

 了



後書
 将臣くんだって男の子だもん♪(何)望美ちゃんはナイトに守られてるのさ。自分で書いといてなんですが、連れ添ったって夫婦かよ(本文参照)
 20061004  七夜月
ブラウザバックでお願いします


















 06.週番(or日直)

 ああ、もう本当にどうしてこう……いつもいつも。
「聞いた? 藤原くん、また後輩の子振ったんだって」
「ああ、知ってる! 本気のお付き合いは勘弁ってことでしょ?」
「そうそう、遊びなら大歓迎だけどって奴」
「それがさ、どうも違うらしいんだ。どうも遊びも断り始めてるって……」
 聞いてられない。忘れたいのに学校に来るといつでもあの人の話が私に付きまとう。なんなのもう、勘弁してよ。
 耐え切れなくなって私は立ち上がった。
「あれ? 望美、何処行くの?」
「職員室。先生に日誌出してこなくちゃ」
「ふぅん、行ってらっしゃ〜い。じゃあ、私達先帰るね」
「うん、バイバイ」
 手を振る友達はまだ喋りたいのかキャーキャー騒ぎながら噂話を繰り広げていた。この分だと、きっと私が戻ってくるまで居そうな勢いである。
 呆れて私は教室から出て、日誌片手に職員室へ行くため階段を降りた。
 踊り場で曲がろうとすると、不意に誰かにぶつかる。
「ごめんなさい!」
「いや、こっちこそ悪かったね。怪我は無い?」
 抱きとめられたと気付いて慌てて謝罪し顔を上げると、そこにいたのは満面の笑みを浮かべた藤原くんの姿。
「そんなあからさまに嫌そうな顔しないでよ。幾らオレでも傷つくよ?」
 多分、言われたとおり嫌な顔をしてた自信はある。目が合ってしまったこと、触れてしまったこと、それら全てに嫌悪感を感じているから。
「私、急いでるから」
「ああ、待って春日。何か落ちたよ」
 そういえば、小脇に抱えてた日誌が無い。ぶつかったときに落としたんだ。拾おうとして屈んだら、日誌が横からスッと取られた。
「藤原くん、それ返して」
「返さなきゃ春日、困る?」
「返して」
 答えるまでもなく困るに決まってる。手を出して要求しているのに、藤原くんは笑ってるだけ。頭にくる、何でこんなにからかわれてるの私。
「じゃあさ、返す代わりに一つだけ条件飲んでよ」
「条件?」
「今日の放課後、オレに付き合って」

 あぁもう、今日は厄日だ。

 了



後書
 まだ条件がないと近づけないもどかしい二人。っていうか、片方嫌ってるけどwwもどかしいどころじゃなく、ツンデレ萌w
 20061004  七夜月
ブラウザバックでお願いします













 07.生徒会長

 自分でも馬鹿だと思う。あんな不当で理不尽な条件、飲む必要なかったのに、気付けば私はこうして藤原くんを前にしてデザートなんてものを食べてるんだから。
 彼がここは奢るって言ったため、腹いせに特大パフェを注文した。胃が壊れそうな盛り合わせに最初注文したことを後悔したけれど、藤原の笑顔を見てたらこう……腹立ち紛れにエネルギー使ってお腹空いたので、絶対完食してやると心に誓っていた。
「それで、何か用?」
「春日はオレを前にするといつもそう言うね。デートなんだからさ、気軽に楽しもうよ」
「デ、デデデート!?」
 ぶほっと思わず食べていたパフェを噴出しそうになった。そんな話聞いてない。私の動揺ッぷりに、藤原くんはニコニコと楽しそうに笑ったまま。
 しまった、また私からかわれてる。なんですぐ乗っちゃうんだろう。自分が憎らしい。
「春日に会わせたい奴がいるんだ。つっても、知ってるとは思うけど」
「は?」
「ヒノエ……こんなところに呼び出すなんて一体どういう……」
 藤原くんはニヤリとしながら私の後ろを見た。つられて私も後ろを見ると、そこに居たのは見目麗しい我が校のアイドル。
「ッ!? 生徒会長!?」
「君は……? ヒノエ、どういうことだ?」
「どうせお前暇だろ? 春日数学苦手なんだってさ。教えてやってくれよ。来週からの補習でパスできるように」
「なっ……!」
 何で私が補習受けること知ってるの?とか、何でそこで生徒会長が出てくるの?とか色々聞きたいことはたくさんあった。だけど驚きの方が勝っている私の口は空気を吸ったり吐いたりするのが精一杯で声にならない。
「私は構わないが……」
「藤原くん、これは一体どういうこと? 私貴方に補習の心配をされるいわれは……」
 まくし立てた私の前で人差し指を立てた藤原くんはストップをかけた。
「知ってる? 補習パスできないと夏休みの間約一週間、補講で潰れるの」
「うっ……」
「春日ってさー、バイトしてるんだろ? 夏休みつったら稼ぎ時なのに、貴重な夏休みの約一週間を補講で潰すの?」
「うぅ……!」
「来月の小遣い。ピンチかもなぁ」
「くぅうううう……!」
 このオトコは……! なんかいちいち腹が立つ。
「だからって何で生徒会長が」
「だって春日嫌だろ? オレに教わるの」
「え?」
 当然といえば当然の言葉。
 それは……確かにそうだけど、不意にその言葉に胸をつかれた。
 思わず拍子抜けしてしまった。というのが正しい。
「オレのこと嫌ってるんだろ? だったらさ、別の奴に教わった方がまだ集中できると思うし」
「でもっ、私が夏休み迎えられるかなんて藤原くんには関係ないことじゃない! どうしてここまでするのよ」
「どうしてってもな……好きだからって言うのは理由にならない? 好きな子が落ち込んだりするの、見たくないし」
 私は思わず黙り込んでしまった。
 また、またそうやって簡単に好きだから、って口にする。
 本当に好きだったら、そんな簡単に口に出来ないはずなのに。
「じゃ、そーいうわけでオレは帰るわ。敦盛、あと宜しく頼むな」
「ヒノエ…っ!」
 生徒会長の制止も伝票を振って流すだけ。藤原くんはそのまま何も言わずに店を出て行った。
「勝手なことして……馬鹿みたい!」
 思わず呟いた私の暴言に、生徒会長が顔を伏せる。
「すまない、ヒノエの非礼は私からも謝罪する。本当に申し訳ない」
「えっ、あの!別に生徒会長を責めてるわけじゃ……!」
 慌てて手を振るが、生徒会長はそっと伏せ目がちな顔を私に向けてまっすぐと私を捉えた。
「いいや、私にとってヒノエは兄弟も同然。身内の恥は己の恥。だが、これだけは覚えていて欲しい」
「え?」
「ヒノエは隠し事があっても嘘だけはつかない。だから、どんな形にせよ貴方を思う気持ちには決して偽りは無いはずだ」
「………………っ」
 会長の言葉に思わず言葉を失うと、会長は静かに藤原くんが座っていた席に座った。
 嘘をついていない? だったらわたしのことを好きだって言うのも、本当だっていうの?
 そんなの、絶対、有り得ないし、信じない。

 どうしてこんな、ぐちゃぐちゃな気持ちにならなきゃいけないのよ。

 了



後書
 あっつんが生徒会長って柄じゃないのは百も承知。
 きっと他者推薦に決まってる(爆)
 でも、こんな会長いたら、いいと思いませんか?
 アタックとかには弱いだろうけど、仕事に関しては問題なくこなしそうだし♪
 20061006  七夜月
ブラウザバックでお願いします













 08.席替え

 誰が決めたのか席替えなんてこと。私は前の位置が気に入ってて、夏にこの席は正直厳しい。窓際の一番後ろ、春ならまだ手放しで喜んだのに、真夏では太陽光を浴びて暑いだけだ。暑くて逆に寝れないし、非常に不便な席である。風にたなびく真っ白なカーテンだけが唯一の遮光物である。
 けれど、景色はよく見えるようになった。窓の下にあるグラウンドではどこかのクラスが体育をしているらしく、走り込みをしている男子生徒たちの姿が見える。隣のテニスコートでは女子がテニスをしているらしい。暑い中の体育ほど、憂鬱なものは無いから、気分的にも晴れない。ああ、やはりこの席はハズレだ。
 暗鬱としかけたその時、男子生徒の中に見覚えのある赤髪の男の子を見つけた。藤原くんだった。
 先日、生徒会長である平敦盛さんから聞いた言葉が私の中で甦る。
 『貴方を思う気持ちに決して偽りはない』
 どうだろうか。
 だってそれならなんで他の子と付き合ったり出来る? いや、今はどうだかわからないけど、そんなに何人もの子に恋をすることが出来るものか。
 恋って一途に思い続けるものじゃないの?
 出来ないに決まってる。出来ないに……。
 なのに、どうして私の胸は少しだけ、罪悪感で痛むんだろう。
 風が凪いでカーテンが静かに元の位置へと戻っていく。そうして私の視界からヒノエくんの姿は見えなくなった。

 了



後書
 席替え=見えなかったとこが見えること。そんな感じでしょうかね。
 20061006  七夜月
ブラウザバックでお願いします