09.落書き
退屈な授業、真面目に聞くつもりはなくて、シャーペンをぐるぐると回した。
目を閉じれば瞼の裏に映るのはあの勝気な瞳。
自分を嫌いだといい続ける少女。同じだった。タイプは全く違うけど、自分を好きにならなかったあの人と同じ。ただ、彼女は俺を突き放すこともしなかったから、まだ春日の方が優しいのかもしれない。だから、ノートの端くれにそっと少女の名を刻む。
春日望美。とても似ている。自分を嫌いな人間なら、大丈夫だと思ったのに。こっちも本気にならないとそう思っていたのに。
手に入れられないもどかしさに、少しずつ焦る。最初は興味本位で近付いた。オレを嫌いだというのなら、落として見せようとそう思った。
でも、今のオレは笑い飛ばせるほど余裕がない。
思い上がりもいいところだ。
何をやってんだ、オレ。こんな余裕が無い自分、あの人のとき以上のことで動揺してしまう。
駄々をこねた子供のように、あの人が欲しかった頃とは全然比べ物にならない。
最初はごまかしていた、自分自身すらもこの感情は二度と持つことは無いと想っていた。
けれど、オレは出逢った。もう一度、今度は力ずくじゃなく、でも、絶対に欲しいと思う相手を見つけた。
好きだと思う、可愛いと思う。けど、あの人を思っていたときとは全然違う感情。
愛しい。傷つけたくない。怒ってもいいから、俺を見て欲しい。
でもオレのせいで傷つかないで、これ以上嫌われたくはない。
思いを告げたあの日から、オレの心は加速してどこかへ走っている。
春日望美。ノートに書いたその名前を、オレは消しゴムで跡形もなく消し去った。
了
後書
個人的には好きなんです男→女の片思いの構図♪
特にヒノエのようなタイプの彼が片思いってめちゃくちゃ萌える!
とてつもなく楽しかった回ですw
20061010 七夜月
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10.忘れ物
敦盛は静かに読んでいた本を置いた。時計を見れば、あと少しで下校時刻となる。
資料集めはこの辺にして、帰ろう。そうして立ち上がると、ガラッと図書室のドアが開いた。
「あ、会長……」
春日望美、その姿を見たとき、敦盛はハッとして息を呑む。親友の思い人である彼女は、敦盛から視線を逸らすように横を向いた。敦盛は一瞬眉をひそめたが、それでもそのことに関しては何も言わなかった。
「春日……貴方も図書室に用が?」
「あ、はい。ちょっと昼休みに忘れ物をしちゃって。借りてた本を忘れていくなんて、馬鹿ですよね」
「そうか……だが、人間たまには忘れることもある。気にするほどではない。……ところで、余計なお世話かもしれないが、勉強の方は進んでいるのか?」
敦盛は直球ストレートど真ん中のボールを望美に投げた。バッターの望美は見事空振りでそのボールを打ち返すことが出来ない。
「はぅあ……! 会長、そんなストレートな……」
「テストは明日だろう? ヒノエも随分と心配していた」
「……! やめてください! 私の前で彼の話をしないで!」
思ったより、声が大きく響いてしまい、望美は自ら口を塞いだ。しかし、言われた敦盛も驚いている。
「すみません。ちょっと、私……今色々と考えることがあって」
「ヒノエのことで……か?」
「………………」
無言と言う名の図星。望美は先ほどよりあからさまに視線を伏せる。
「そんなにヒノエが嫌いなのか?」
敦盛は静かに問う。望美はまたもカッとしたように声を荒げたが、今度は意識的に声量は小さかった。
「大ッ嫌いです! だって、たくさんの女の子を傷付けて……なのに、他の子をまたとっかえひっかえ……どうしてそんな軽薄な態度を取れるんですか?」
「軽薄な態度に、貴方には見えるのだな」
苦笑して、敦盛は呟いた。まるで、そうではないかのように。
「見えるのだなって……会長にはあれが軽薄な態度には見えないんですか? やっぱり男の子だから?」
「いいや、あなたの意見も間違っていない。むしろ、あなたの意見の方が正しいのだろう。……これは、私の勝手な解釈だが、ヒノエは決して軽薄な態度で少女達に接していたわけじゃないと思う。きっと、探していたのだろう」
「探してた?」
「あの方以上に、愛することの出来る人を。互いを知るには近付かなければならない。だとしたら、傷つけるということを考えるよりもまず、距離を縮めるものではないか?」
訳がわからない。会長は一体どうしてそんな話を私にするんだろう。それに、会長が言ってるのは軽薄じゃない理由にはまったくならない。と、望美は首を捻った。
「でも、それだって結局……!」
「だったら、聞いてみるといい。他の女生徒たちに、どうしてヒノエを好いているのかを。きっとそれは私が言うよりも、あなたの胸に響くであろうから」
敦盛は望美の脇を通るときに、ふと立ち止まった。
「忘れ物はこの本だろうか?」
そういって敦盛が望美に見せたのは、数学の参考書。間違いなく望美が借りたもの。
「テスト、出来がいいと良いな。合格できるようにささやかながらに祈っている」
その言葉を残して、敦盛は教室を出た。きっと、赤面していた望美のことだから、図星だったのだろうと敦盛はクスクスと笑った。
その笑い声は静かに消えると、敦盛は顔を泣きそうにゆがめた。
「本当に、見た目だけはあの方に似ている」
祈るのは勉強の事だけではない。
親友の幸せと、そして彼女の幸せを。
了
後書
やーもう、嫌いすぎてすみませんです。でも楽しい(ごめんSだから)
軽いツッコミ。たかだか参考書を読んだくらいで成績が上がるなら、あんなに参考書がこの世には存在してないと思う(真顔)
20061010 七夜月
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11.抜き打ちテスト
テストの準備もバッチリ! ちゃんと公式も覚えたし、これならイケる!
……はずだったんだけど。
「抜き打ちねェ〜」
私の前で大あくびしながら、寝起きの将臣くんが頭をかいた。
「酷くない!? ねぇ、酷くない!! こんなのってないよね! 聞いてる? 将臣くん!」
「聞いてるから、首元掴んで揺するな」
望美は急遽追加された一学期の復習+一年の復習というテストにより、補講が確定していた。
「もーいや! なんでこうなるの! 酷い!」
「いや、酷いのはお前の数学の点数だと思うぞ、今時赤座布団なんて珍し……」
「ムカつく! そんなこという口から息吸う首は絞めてやる!」
「グッ……おま、マジ締まってる…! ギブ!」
将臣くんが遠慮なしに人の手を叩くので、私は離してあげた。しかし補講ともなるとバイトは出来ないわ拘束時間は長いわで、全然いいことなんか無い。
「どうしてこうなるのよ」
「どうしてってそりゃ……お前の頭が悪すぎんだろ」
「ムカつく! 締めてやる! 締めてやる!」
どうしてこの幼馴染は優しい言葉の一つもかけられないの! 私が憎しみでいっぱいの胸中を腕に力へと変換させこめていると、ケータイが鳴った。ディスプレイを見ると、クラスの友達からだ。
「つーか、お前こんな朝早くから何しに来たわけ?」
むせながら尋ねる将臣くんに、私は悪魔の笑顔を浮かべて答えてあげた。
「寝ているであろう将臣君に嫌がらせをしに」
「このっ……!」
「あ、電話だ。早く出なくっちゃ。もしも〜し」
「望美!」
喚く将臣くんはそのままに、私は有川家を辞すると、友達と話しながら家に戻った。
「今から?」
内容は今から数人で遊ぶから来ないか、ってことだった。まだ夏休みは始まってないのに、既に浮かれモード突入である。補講決定で不幸な今、幸せそうな人をわざわざ見に行くのも馬鹿らしいが、友達とあってはまた別だ。私は結局頷いて、待ち合わせ場所へと向かった。
了
後書
赤座布団、意味が解らなかったらお母さんかお父さんに聞いてみよう。
ちなみに、わたしの学校には赤座布団は存在しませんでしたw
20061013 七夜月
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12.居眠り
『望美は頭固すぎだよ〜。確かにさ、告白して振られたら、泣くかもしれないよ。でも、それは普通の事でしょ?誰だって断られたら傷つくじゃん。誠意の問題? うーん、そうなんだろうけど、ヒノエくんはちゃんと解ってるよ。だって、嫌がる子には絶対手を出さないし、ましてや断ってるのだって一種の誠意だと思う。どこがって……まぁ、私が見た感じだけどね。彼はきっと一つのところにはいられない人なんだよ。自分の性格を解ってるから、逆に他人を深く受け入れないんじゃないかな。それこそ、振ったときよりもっと傷付けるの解ってるから。もしも付き合って、本気になればなるほど、ヒノエくんも本気にならなかったら、きっと傷つくんじゃないかな。ずっと傍に居るのに、存在意義を見出せないのは振られるより辛いよ。だからね、私たちは遊びでいいの。楽しくやれればそれで十分。あの手のタイプの男の子に本気になんかなったら、きっと辛いだけだよ。解ってあげて、なんていわないけどね。人には好き嫌いあるし。でも、知らないうちから嫌うの、勿体無いよ? だって、傷つくってことはそれだけ一緒に居るのが楽しいヒトってことなんだからさ』
わからない。どうしてそんなことを笑顔で話せるの? 傷付けられてるのに、どうしてそんなことが言えるのよ。
わからない。全然解らないよ。みんなはあの人と一緒に居て、どうしてそんなに笑えるの?
私にとっては数学よりも、ずっとずっと難解な問題。当てはめる公式がどれか、全然わからない。
「〜〜〜で、あるからして、」
遠い場所から声が聞こえる。夏だなぁ、セミが鳴いてるなんて。もうすぐ夏休みだしね。
今はなんだか気持ちがいいの。誰も邪魔しないで。私はただ静かにここでこうしていたいだけだから。
風が吹く。ちょっと冷たくて気持ちがいい。考えるのに疲れちゃった。しばらく考え事はやめたいの。
ねぇ、だから惑わさないでよ。私をもうこれ以上、惑わさないでよ。
私はただ、傷つかずに普通に過ごしたいだけ。そう思うのは悪いことじゃないでしょう。
ああ、もう。なのに私は考えてる。やめたいのにやめられない。考えたくなんてないのに。
付き合ったら傷つくだなんて、どうして言えるの? 友達の言葉が胸に響く。
了
後書
ちょっとずつ、望美ちゃんも意識し始めます。
それにしても、彼女の考え方は一本気です。良くも悪くもイノシシ並み。
自分の中の正義以外を受け入れるのに苦痛なんでしょうか?(何故疑問系)
20061013 七夜月
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