同級生 小さい頃から、ずっと好きだった。 「ねぇねぇ!功祐は大きくなったら何になるの?」 「そうだな〜。まだ解んないや。悠里は?」 「わたし?わたしも解んない。けどたのしく生きてられたらそれでいいや」 「なんだそれ!ババクセェ!!」 「ババッ……!?何てこと言うの!功祐のバカァ!!」 小さい頃は良かった。 誰もあいつのいいところを知らないから、俺だけの悠里だって胸を張っていられたから。 でも今は……。 「待ちなさぁい!!功祐ェーーー!!!!アタシの可愛いエビフライを返しなさぁい!!!」 「へっへ〜ん。悔しかったらとってみろよ」 「お、相変わらずだなぁ。お前ら」 「仲が良いのは良い事だな」 「あっ!朗先輩に悟先輩!」 途端に嬉しそうな顔になる悠里。 いつの間にか悠里には変な虫がつくようになっていた。 「ちっす、先輩」 「おう」 追いかけっこをしていた悠里の足が止まり、俺は先輩方に小さく会釈した。 ソレに対して答えるのは大体いつも悟先輩。朗先輩は俺の気持ちを知ってか知らずか、いつも俺を見ない。 「んで?今日はなんで追いかけっこしてたんだ?」 「訊いてくださいよ!!功祐ったらアタシの楽しみにして最後まで取って置いたエビフライ、とったんですよ!!あんまりですよね!」 「最後まで残しとくほうが悪いんだよ」 悠里が怒るのはいつものこと。というか、怒らせてると言った方が正しいか。 「なんですって!?ヒトの弁当箱からエビフライとるほうが悪いに決まってるじゃないの!!」 「解った解った。今度俺の弁当に入ってるエビフライお前にやるよ」 「え?本当?」 途端にパッと顔を輝かせる悠里。ったく、本当に食い意地はってるっつーかなんつーか。 「って、そんなんじゃ許さないんだから!今度そこの喫茶店でパフェもつけてね」 そしてちゃっかりモノだな。 「了解」 ホント、いつになってもコイツの性格は変わんない。我儘で強がりで素直じゃなくて、おまけに鈍感で。 「良かったな〜、悠里。奢ってもらえて」 悟先輩が子供にするように悠里の頭をクシャクシャと撫でる。 「せ、せんぱぁぁい……」 ぐしゃぐしゃになった悠里の髪を見て、俺は面白くない。 ……っんだよ。小さい頃俺が頭を触ると怒ったくせに、悟先輩はいいのかよ。 「じゃな、二人とも。喧嘩するのも大概にしとけよ?」 「それは功祐に言ってくださいよ」 悟先輩から笑われて、ムゥッとした表情で俺を見る悠里。 解った解った、俺が悪かったよ。 「善処しまーす」 「んもう!そうじゃないでしょ!」 何食わぬ顔でそう言うと、悟先輩は笑ってその場を後にした。 「それじゃあな、悠里。……それに、功祐も」 「あ、はい」 ……今、朗先輩も微かに笑ってたよな。 悟先輩と共に去って行った朗先輩。相変わらず身ごなしが優雅だと言うか何と言うか……。 どう考えても俺より一つ上には見えない。 「もう!功祐のせいで先輩に笑われちゃったじゃないの!」 悠里は俺を見てプンプンと怒っている。この顔も結構可愛いと思うけど、言葉が可愛くないから教えてやらない。 「俺のせいじゃねーよ。普段のお前を見てるから、今更だろ」 だからついつい俺も言う気のないことまでいっちまう。 自分でもガキだなぁとは思うけどさ、やっぱり……惚れた女が他の男を気にするのって、なんか面白くねー。 「なぁあんんですってぇぇええ!」 わざわざムキになって怒る悠里は、その時は俺だけを意識してくれてるから、やっぱり怒らせちまうのかもしれねーな。やっぱ、大人げないわ、俺って。 「怒るなって。お前って黙ってりゃ可愛いのになぁ」 「ふんっ!どーせ可愛くないもん!悪かったわね!」 「すぐそうやってムキになるし」 「性格なんだから、しょうがないでしょ!みんな海里が可愛い可愛いって、そればっかなんだもん。少しくらいひねくれたって、仕方ないもん」 ………あぁ、そっか。コイツ昔から海里と比べられてたから、コンプレックスになってるんだっけ。 「気にすんなよ、お前にはお前のいいトコちゃんとあるんだからさ。海里は海里だろ?それに幾ら可愛くったって海里は男なんだから、いずれちゃんと彼女も作るだろうし」 「……じゃあ、アタシのいいトコってどこよ?」 「それはだなぁ……」 コイツのいいトコ……改めて考えてみるとなかなか浮かばない。 ムクれたトコとか実は結構可愛いとか思うし、我儘だって言っても実は弟思いだし、強がるクセして脆いとことか結構あるし。……長女だから、しっかりしなくちゃって、影で泣くタイプなんだよな。 ……つーか、下手したら好きの欲目って事もあるかもしんないし。なんていったらいいのか……。 「う〜ん………」 「ほら!やっぱり無いんじゃない!」 下手な事言ったせいか、悠里は逆に目くじらを立ててしまった。 「もういいわよ!功祐に聞いたアタシがバカだったわ」 フンッとドシドシと音をたてそうな勢いで歩き出した悠里の後を追って、俺もついていく。 「あぁ、待て待て!」 「ついて来ないでよ!」 心底怒っているのか、悠里の顔は怖かった。 あーあ、さすがに海里と双子だけあって、大人しくしてりゃあそれなりにモテるだろうに。 こんな顔してたら、台無しじゃねーか。 「あのさぁ、悠里。お前もうちょっと考えてみろって。いつまでも海里と比べてたってそれこそしょうがないだろ?お前はお前で海里にはなれないんだ。海里みたいになりたいんだったら、少しでも努力しろよな。妬んでたって状況が変わるわけじゃねーだろ?」 「そんなこと……解ってるわよ!でも、しょうがないじゃない!どんなに頑張ったって、アタシじゃ結局海里には叶わないんだから!小さいころからずっと海里海里って、パパもお祖母ちゃんもお祖父ちゃんもそればっかり!誰もアタシを可愛いなんて言わなかった!アンタだってそうだったじゃない!」 「えっ!」 いきなり告げられた悠里の言葉に俺の思考は停止する。そうだったか? 俺は記憶があやふやで何にもいえない。 「悠ちゃんは海里と違って乱暴だって、悠ちゃんより海里の方がお姫様みたいだ。結婚するなら海里の方がいいって、そうずっと言ってたじゃないの!」 げっ!!しまった……! 確かにそんなこと言った気がする。でもアレは…その……なんつーか……。 俗に言う好きな子の気を引きたいって奴で……。 決して本心で言ってたわけじゃない。 大体、男同士で結婚なんか出来るか! 「悠里……アレはな」 「だから、今更知ったような事言わないでよ!」 悠里は俺の言葉を最後まで聞くことなく、終いには憤慨して走り去ってしまった。 「お、おい!」 追いかけようにもなんて言ったらいいのか解らなくて、俺はそのまま呆然と悠里の後を見送った。 好きな子慰めるつもりが怒らせて、しかも追いかける事も出来ないなんて……。 はぁ……俺って情けねぇ……。 俺はその場で溜息をついた。 「どうしたの?功祐。次の授業って移動だよ?早くしないとチャイム鳴っちゃう」 「あぁ……」 海里に声を掛けられて生返事をすると、海里が疑問符を浮かべながら苦笑した。 「何?何か悩み事?」 「ん?まぁな」 「功祐が悩むなんて、珍しいね」 クスッと笑い声を洩らした海里に俺はついムッとする。 ったく、俺はお前が原因で悠里とこんなことになったんだぞ?そこら辺解って……ないよな。 「っておい、俺だって考えたりするんだから悩んだっておかしくないだろ」 「しかも、今日はムキになって突っかかってくるし?相当重症なんだね、その悩み事って」 「……………」 笑われてしまい俺は言葉が返せなくなっちまう。確かに、こう熱くなるのは俺らしくない。 やっべぇ……海里の言うとおり相当重症かも、俺……。 でも結局俺は八方塞でなんにも解決策は見出せない。 やっぱここは悠里の弟で尚且つ俺の親友である海里の助言を授かるしかねーよな。 「悠里と喧嘩した」 溜息ついでに俺が海里に悩み事を洩らすと、海里はいかにも意外そうな顔をした。 多分予想外だったんだろうな、俺たちいつも喧嘩してるから、別に悩む事じゃねーし。 「悠ちゃんと?それはまた……でも喧嘩ならいつもしてるじゃない。そんな派手に喧嘩したの?」 「いや、別に派手に喧嘩したってわけじゃないんだけどさ。ちょっと……本気で怒らせちまって」 「へー……悠ちゃんが功祐相手に本気で怒るのも珍しいね。いつもはじゃれあいみたいな感覚で功祐と喧嘩してるみたいだったし」 「だよな……」 「まぁ、そんなに気にしなくてもいいと思うよ?悠ちゃんの怒りは一度寝れば直るから。なんなら帰ってから僕が悠ちゃんの様子を見てみるし」 「あぁ、頼んだぜ」 「うん、それじゃあそろそろ移動しようか。喋ってる間にもうこんな時間だしね」 「うわっ、やべぇ!行こうぜ、海里!」 なんか……親友っていいよな。しかも片思いの相手の弟だと尚更。いちいち気を遣って話す必要もねーし、何より心強い。幼馴染ってのじゃ幾らなんでも限度枠があるけど弟なら姉も腹割らずとも本音で話すだろうし。 ま、いまんとこアイツの中じゃ俺は使い勝手のいい幼馴染ってトコなんだろうな。 だけど海里は何かにつけて気を遣ってくれる。 言っちゃいないけど、海里には俺の気持ちがとっくにバレてるみたいだ。 まぁ、解んないアイツが鈍すぎるんだけどさ。 とにかく、明日はアイツの機嫌が直ってますように。 俺は祈りながら教室を移動した。 → 長いので二つに分けました。お題なのにね。 20050922 七夜月 |