Jealousy 「はぁ!?悟先輩が浮気!!??」 こんにちは、皆様。寺沢悠里です。 さてさて、アタシはいま、ひっじょぉぉおに混乱しております。 理由は明確。たった今、郁美から聞いたこの言葉です。 浮気?浮気??このアタシを差し置いて(違)悟先輩が浮気!!?? しかも相手はアタシの双子の弟、海里ですって!? 「いえ、浮気とは申し上げませんが……ただ、この間佐久間様が仲睦まじく海里ちゃんと歩いていたのを見かけたので」 「浮気よ!!浮気に決まっているわ!!」 アタシは断固として決め付けた。 「えぇっと、でも佐久間様は男性ですから、悠里ちゃんが心配するような事は何もないと……」 「甘いわ、郁美!!この世には男と男の甘い関係だってうじゃうじゃめろんめろんに生息してるんだから!!」 「はぁ………」 もはや自分でも何を言っているのか解らないくらいなんだから、郁美だって解っているはずはない。 曖昧な返事をアタシに返して、何と言ったらいいのか解らないって顔してる。 でもね、郁美。世の中本当に何があるか解ったもんじゃないのよ! 「確かめるわ、アタシ……」 「は?」 拳を作って高く天にかざすと、アタシは高々宣言する。 「絶対確かめるんだから!海里と浮気だなんてそんなおいしい…ううん、許しがたい事、逃してなんておけますか!」 「あの、悠里ちゃん?」 「今日の夜!決行だわ!」 「……なんだか解りませんが、さっすが悠里ちゃん!頼もしいですわ♪頑張ってくださいまし」 「有難う!郁美の応援に答えるべく、アタシ頑張るから!!」 かくして、アタシのクランチ忍び込みは決定されたのであった。 改めまして、皆様こんにちは。 アタシは寺沢悠里、16歳。草堂学園の一年生です。 悟先輩とは学園祭以来付き合っているんだけど、付き合ってるか付き合ってないのか、微妙な関係。 でもとりあえず好きあって一緒にいるんだから、付き合ってるんだよね。 うん、そういうことにしとこう。 あ、悟先輩って言うのは、アタシの一つ上の先輩で、自治会の副会長をしてる人。 サッカー部も掛け持ちなんだけど、でも頑張って両立してるすごい先輩なの!ルックスもいいし、正直言って、なんでアタシを先輩が好きになってくれたのか、謎なくらい。 でもね、先輩は後夜祭の時にアタシに言ってくれたんだ。 アタシの事が好きだって。 それってやっぱり……そういうことよね? なんか照れちゃうんだけど、アタシも先輩の事好きだし、やっぱり嬉しかったな。 なーんて、のろけてみちゃったけど、今その二人の間にピンチが訪れてる! だって先輩が浮気してるっていうんだから! しかも相手は海里でしょ?まさか弟と一人の男性を取り合う日が来るだなんて、思いもよらなかったけど、でも放ってはおけないわ。 こういうのって、やっぱり確かめるべきだと思わない? というか、腐女子としては当然の行為だと思うのよ。 と言うわけで。 寺沢悠里、今晩クランチに忍びこみまぁす♪証拠を掴んでそれをネタに (上手くいけば、海里と先輩のラブをこの目で見る事も可能かもしれないし) 「海里、アタシ今晩ちょっと出かけてくるからね」 夕食前にアタシが海里にそういうと、食事準備をしていた海里がこっちを向いた。 でも微かに眉間に皺を寄せて、あんまりアタシの提案を歓迎してくれてないことはわかる。 そんなに信用ないかな、アタシ。 ま、それも当然かもね。 アタシたちは文化祭まで、夏休みから酷い非現実なことに悩まされた。 それは海里とアタシの心が入れ替わるって言う不可思議な現象。 そのお陰で、まぁアタシは悟先輩とこういう関係になれたわけだけど、あの時海里の体に入ってるとき、かなり無茶をしてしまった。美紅って言う郁美のもう一つの人格に迫られたり、むざむざ自分(海里)の体をアンリって言うショタ馬鹿外人に売り渡そうとしたり(でもそれも未然でふさがれたけど)。 いや、ほんの出来心だったのよ。あの時のアタシはちょっと大人気なかったの。つい自分の欲望のままに行動しちゃって、海里をいじめた事は認めるわ。 それにちゃんと、一応そのことについての謝罪もしたしね。 でもやっぱり一度落とした信用を再び回復させるには根気と時間が必要みたい。 「そんな夜遅くに、どこに誰と何しに行くの?」 「ん、ちょっと」 まさかアンタと悟先輩の浮気の証拠を握りに行くためだとかぬかせないので、アタシは適当にはぐらかそうとした。 でも海里はしつこく食い下がってきて、アタシは小さく溜息ついた。 海里のいいたい事は解るし、アタシを心配してくれてる事もわかる。 「ちょっとじゃないよ。悠ちゃんは目を離すとすぐ何かしでかすから、僕は心配でしょうがないんだよ?」 「でもね、あたしだってもう16歳よ。自分で考えて行動できるって」 「その16歳が自分で考えて行動した結果どうなったか、忘れたとは言わせないよ」 海里の眉間の皺が更に一本増えた。 ふえぇえん。海里怖いよ〜、それ言われるとアタシもかなり痛いんですが。 「解ってるわよ、あのときのことならちゃんと反省したじゃない!謝ったでしょ?もういい加減水に流そうよ」 「流せるわけないじゃないか!あんな……あんな……!!」 海里はその時(一体どのときだかもはや見当もつかないけど、やっぱりあの時のクサレ外人のことかな)を思い出してるのか、体を身震いさせてアタシを睨んだ。 海里〜、そんな顔したらせっかくの綺麗な顔が台無しよ? 「とにかく!悠ちゃんは目を離すと本当に何するか解らないんだから、ちゃんと言ってくれないんだったら外になんか出さないからね!」 「解ったわよ〜。言えばいいんでしょ?郁美とちょっと落ち合うの!色々と女の子同士相談があるから」 あらかじめ郁美にはアリバイ工作の共犯になってもらってるから、この点は心配なし!抜かりがない悠里ちゃんを舐めないでよね! 「郁美さんと?」 郁美の名前を出すと海里は意外そうに目を見開いた。 まぁそれも当然。郁美は筋金入りのお金持ちで、小さい頃からずっと習い事をして過ごしてきたので、夜に時間を作るのだって難しいのだ。 それに、相変わらず海里は郁美の名前を出すと弱い。 「それはウチじゃ言えないことなの?女の子二人が夜に外で会うだなんて、危ないよ」 「言ったでしょ?女の子同士大切な話があるんだってば。それに、郁美の家に行くんだから大丈夫。駅まで郁美の家が迎えに来てくれるみたいだし、心配しなくても平気よ」 真顔で大ぼら吹いたあたしを微塵も疑わずに、海里は少しだけホッとした顔になった。 「そっか、それじゃ行ってらっしゃい。でもなるべく早く帰ってきてね。僕、心配だから起きて待ってる」 「別に寝てたって良いのよ?鍵もってくし。それになんかあったら電話するから」 「……うん、解った。気をつけてね」 ホッ。渋る海里をなんとか説得成功。よかったァ〜これで邪魔されずに色々と物色…もとい、証拠探しが出来るわ。 夕食を勢いよく口にかけこんだアタシは、海里にばれないようにとワクワク感を抑えつつ、でも内心気分は高揚して家を飛び出たのであった。 う〜ん、見張りはいない。 ジェイク先生もさっき寮監室を覗いた限りでは仕事をしていたみたいだから今のところは大丈夫。 あ、ジェイク先生って言うのは、英語教師兼このクランチの寮監なの。 クランチは男子寮で親元を離れてこの学校に通っている生徒が使用してるわ。草堂学園が元男子校だったから、男子寮しかないのよね〜。アタシも女子寮とか憧れてたんだけど、悟先輩曰く、飢えた獣どもがいるクランチの横に女子寮なんか出来たら大変なんだって。まあ、それも確かにそうかなってアタシも思ったけどね。 それはそうと、時刻は只今21時。 忍び込むには今がチャンス!な、気がする。 先輩から以前、聞いた事がある。この時間帯は大体お風呂場が混雑してて、入るのにも順番待ちだって。先輩もだから面倒だっていつも個室のシャワー使ってるみたいだけど、今夜はきっと大浴場を使うわ。そう、アタシのBLの勘が告げてるのよ。別名、腐女子の勘(笑) とにかく、実行あるのみ!行くのよ悠里!ここで負けたら女が廃る!!(?) 「オネーサン!コンナ時間ニドウシマシター?」 「のわぁぁあああ!!!!」 背後から声を掛けられて本気でビックリしたアタシは植木から思わずのけぞりそうになる。 ついでに大声を出した自分の口を自分で塞ぐ。 キッと後ろを振り返って、クサレ外人もといアンリをみたアタシは眉を吊り上げて小声で怒った。 「あ、危ないじゃないの!いきなり後ろから声かけないでよ!ビックリしたでしょ!!」 「オネーサンコソ、コンナ時間ニコンナトコロニイルナンテ、怪シイデース!」 「シー!シー!!」 慌ててアンリの口を塞いで、アタシはぜぇはぁと肩で息をした。 全く、気配を感じさせずにアタシの背後を取るなんて、相変わらず人間業をかまさない奴ね……。 こいつはアンリ=デュバリエ。クランチの寮のシェフを務めてる奴。綺麗な人しか名前を呼ばない大変失礼な奴。あたしはどうもこいつの美的感覚から外れるらしく、未だに名前を呼んでもらった事はない。 生涯の天敵と言ってもいいかもしれない。ストレスの原因、元凶であるこいつと鉢合わせすると、いつもロクな事がない。さっさと退散を決め込んでアタシはこいつを無視した。 「アタシはちょっと用があるの。悪いけど、邪魔しないでね」 「用?ナンノ用デスカー?飢エタオオカミニ食ベラレニ来タンデスカー?」 「違うっちゅーの!大体、何でアンタがそんな言葉知ってるのよ!」 ってか、こんな奴のいう事を聞いてる場合じゃないよ、アタシ。時間は刻一刻と迫ってる。 「まぁいいわ、とにかくアタシは悟先輩に用があるの。本人には言ってないから、アタシ部屋番号知らないのよね。知ってたら悟先輩の部屋どこだか教えて」 「……イイデスヨ。ソノ代ワリ、海里サンヲ一日レンタルシテクダサーイ!」 こ、こいつ……!まだ諦めてなかったのか……! 以前コイツがお稚児3P云々で郁美と海里に迫ってたのをアタシは知ってる。どうやらこいつにとって日本に来たらずっとやりたかった夢らしく、何かとアタシに海里レンタルを迫ってくる。 でも、幾らなんでももう海里を売り渡すような真似は出来ない。一回前科があるだけに、尚更海里に警戒されている。 「悪いけど、それは出来ない相談だわ。直に海里と話し合ってって、いつも言ってるでしょ?アタシじゃもう海里警戒して、言う事聞いてくれないのよ」 「……フゥム、ソレジャ仕方アリマセンネ〜。オネーサン使エナイデス」 な、なんだとこのバカ外人が!! この天下の悠里ちゃんを捕まえておいて使えないとはなんたる侮辱!なんたる屈辱!! 怒鳴り散らしてやろうと思ったけど、理性を取り戻したアタシはなんとかその場を留まる。 ふぅ、このバカのせいでいらん体力を使ってる気がするわ。 「とにかく、教えてくれるの?くれないの??アタシ、時間が限られてるから早く行きたいんだけど」 「悟ノ部屋ハ二階デース。オネーサン自力デ行クツモリデスカ?」 「当たり前じゃない。自力で行かず、何で行くって言うのよ」 「"タリキコンガン"ッテ素晴ラシイ日本語アリマース!」 「それをいうなら"他力本願"でしょうが。つか、この状況で他人を頼れるわけないじゃない」 大体男子寮にアタシの知り合いなんぞは住んでない。幼馴染の功祐はアタシたちと同じように自宅通学だから、寮には用はないし、幾らなんでもクラスメイトにこんなこと頼むわけにはいかないし。強いて言うなら、文化祭で少しだけ仲良くなった朗先輩か……。 ふっ、でもまさか朗先輩がこんな馬鹿げた事に付き合ってくれるわけないわ。 むしろ止められ嫌われる確率の方が高いし。 悟先輩の彼女でもやっぱりカッコいい朗先輩に嫌われるのはいやなのよねぇ〜。幾ら腐女子といえど、それなりに乙女心も残ってるし。第一、朗先輩に嫌われたら、親友の悟先輩にだって嫌われかねないじゃないの! という事は、やっぱりこの場合まかり間違っても朗先輩と悟先輩に見つかる事だけはなんとか避けねば! 「協力シテアゲマショーカー?」 笑顔でアタシにそういったアンリ。 正直………こ、怖い。 今度は何が目的なの? 「………見返りを求めての協力ならいらない」 「ノォォォン!困ッタ人ヲ助ケルノハ私ノシンジョウデェス!オネーサン困ッテマスネー?」 アタシが先手を打って言った言葉をアンリは大袈裟なリアクションで返した。だから、アタシは今お忍びだっての!解ってるの!? つか、ぶっちゃけ信条とか有り得ないし。 むしろ気持ち悪いし。 関わりたくないアタシはさっさとその場から退散する事に決めた。 「気持ちは有難いけど、ただでさえ危険な一人行動なのに二人でなんて行動したら余計目立つわ。部屋番号教えてくれたらそれでいいから」 「ソウデスカー?面白ソウデシタノニ……」 面白そうかよ!!何を期待してたんだアンリ=デュバリエ! ま、こいつの気持ちは解らんでもない。正直言ってかなり嫌だが、こいつとアタシの求めてる世界が一緒なのはもう変えられない事実なのだ。 「で、部屋番号は?」 「3106」 「へ?クランチの寮番号って4桁もあるの?」 「オネーサン、ユーモラスッテ言葉知ラナイデスカー?3(さ)10(と)6(る)デース!」 「…………………」 殴ってもいいだろうか、こいつ。 「嘘!冗談!今ノハナシデース!棒持ッテ迫ラナイデクダサーイ!!本当ハ201番ニナッテマァス!」 アタシの本気が伝わったのだろう。 少しだけ冷や汗を流しながら後退するアンリ。ふん、解れば良いのよ、解れば。 「それ、本当でしょうね?嘘ついたら……」 「本当デスヨ!嘘ダッタラ今度オネーサンニオワビニ可愛イ少年ノ写真ヲプレゼントシマス!」 ぐ、って彼氏もちなのにここで踏み止るなアタシ!あまりにも魅惑的な発言に思わず揺れそうになるが、問題はそこではない。 「そんなもんいらんわ!」 とにかく、悟先輩の部屋番号はゲットした。となればもうこのアホに用はない。 「じゃあね、とにかくアタシ急いでるんだから」 無駄な時間をこいつに合わせて使ってしまったわ。ついでに無駄な労力も。 「オネーサン、ゴムモ持参シタ方ガイイデスヨー」 持っていた棒を力いっぱいアンリの頭に投げつけてから、アタシはその場を去った。 → うわぁ、とっても素敵なほど原作に忠実にしたのがよく分かる作品ですね このテンポが私がダブリアに惚れた理由の一つでしたから まぁ、ただちゃんと出来たかどうかは別として、ね? そんなワケで続きます。 20050922 七夜月 |