江ノ島2 「どういう意味で……?」 「そのままの意味だよ。オレはお前が欲しい。お前の心も身体も全て」 ギュッと、目を瞑り、身動き取れないまま混乱している望美は突然の出来事に反応できない。 「お前が好きだよ。だから、オレにお前をくれないか? 言葉が欲しいなら、オレが欲しいなら幾らでもお前にやるよ」 その時の望美はそんなこといわれても状態である。突然の告白で、また少女マンガのような展開しか知らなかった望美は困る一方だ。こんな情熱的な告白を受けた後のシミュレーションなんて考えてなかったのだから当たり前である。どちらかというと、望美が告白する予定だったのだから。 「他の誰にもお前を渡したくない。……オレだけのものにしたい」 「………………っ!」 ヒノエからの首筋に軽く触れたキスで、望美は限界だった。機械だったら全身から蒸気を発しているだろうほど熱に帯びながら、そのままヒノエの元へ崩れ落ちた。 「……………もう、ダメ……」 がくんと、倒れ掛かった望美の腕を掴んだものの地面に膝をついてしまった望美の顔は真っ赤だ。 「おい、望美?」 立とうとしても足腰に力が入らない。入らないというよりも、力が出ないというようだ。 「腰が抜けちゃった……」 「腰がって……」 真っ赤になっているのは照れているためというのはヒノエにも解っていたが、しかし妙に望美の身体は熱い。 不審に思って額に手を当ててみると……。 「望美、そろそろ帰ろうか」 「へ?」 「お前、熱あるよ」 「ええ?」 ヒノエの愛の告白が起爆剤だったようで、望美の体温は一気にヒートアップしていた。そういえばと自分でも朝から不調だった気がしなくもないが、まさか熱があるとは思いも寄らなかった。 「まさか熱があるとはね。今回はこの辺にしておこうかな、あまり姫君を夜風にさらしておくと、具合が悪くなる一方だろうから」 「でも、まだ……」 龍恋の鐘を打っていない。 チラッと望美の目線が鐘に向かったことで、ヒノエにも望美が何をしたかったのか理解できた。 本当は、両思いになったら一緒に叩きたかったのに。という望美の想いがヒノエにもきちんと届いたようだ。 「あの鐘のことだったら、また一緒にここに来ればいいじゃん。これからだって一緒にこれるだろ?」 「うん、そうだね……」 「それじゃ、姫君背中へどうぞ」 「え?」 望美に背を向けてしゃがみこんだヒノエにきょとんとなっていると、従者のように片膝をついたヒノエがわざと丁寧な言葉で望美に告げた。 「立って歩けない姫君を背負わせていただきます」 「え、いや! そんなことしなくていいから! 重いし!」 「大丈夫だって。それとも、横抱きがいいかい?」 「おんぶでお願いします」 きっぱりと言い切った望美にくすりと笑い声を漏らして、ヒノエはそのまま背中にかかる体重を易々と持ち上げた。 「ねぇ、重くない?本当に平気?」 「全然平気だよ。姫君は心配しすぎ。お前が重いならそこら辺を歩いている蟻だって重いことになるよ」 「そんなわけないじゃない」 「ははっ、オレも役得だし大人しく背負われてな。恥ずかしかったら、そのお前の衣で顔隠せばいいし。それに、風邪引いてるなら尚更温かくしときなよ」 ヒノエが言ってるのは、上着についているフードのことだ。少し迷った後に結局言われたとおりにフードを被って、望美はヒノエに語りかけた。 「あのね、さっきはいえなかったけど……」 「ん?」 「私もヒノエくんが大好きだよ」 「……望美」 告白した望美の言葉を聞いたヒノエの声がワントーン下がる。顔が見えずに声音だけで判断するしかないので、その変化に望美は少々怖くなった。 「え?」 「熱が下がったら覚悟しておいたほうがいいぜ」 「覚悟?」 「さっき言ったろ? 心も身体も全部貰うって」 「……………っ!!」 声に何かを含みながらそういい切ったヒノエに、望美はまたもや上がった熱に黙りこんでヒノエの肩に顔を埋めた。 「ははっ、照れても可愛いよ」 「そんなことばっかり言ってるんだから!」 「そんなことばかりじゃないけど……ま、それがオレだから」 あっさりと答えられ本人も自覚しているとなると、本人が変わる気がなければ、この性格や言動は変わらなさそうだ。 「そうだけど……もう、いいよ。あけましておめでとう、ヒノエくん」 だが、そんな押しの強いヒノエだからこそ、望美も思いを自覚したのだ。 「あけましておめでとう、姫君」 ヒノエへの言動に諦めた望美はくすくすと笑いながらヒノエの首に再び抱きついた。 新年早々熱があるなんてちょっと予定外だったけれど、こんな風に誰より傍にいられるなんてなかなか無いのかも。 なんて考えながらそっと瞼を閉じてヒノエの体温を全身で感じ取っていた。 了 BGM:「月を抱く天秤」(ヒノエ) 20060102 七夜月 |