邂逅 7



 光が晴れたとき、またもや妙な浮遊感と望美は自らの身体が宙に投げ出されていることを知る。
「っ!きゃああああ!……いだっ!」
 今度は腰を強く打ち付けて、それをさすりつつ望美は立ち上がった。ついでに土埃も叩く。
「あたた……もう、このパターンは飽きたってば。普通に出てこれないのかな……それとも私って白龍に恨まれてる?」
 軽口を叩きながら、心配かけたし案外冗談じゃないかもと、馬鹿なことを考えてみる。が、そんなことよりも現状を確かめなければならない。
 再び辺りをキョロキョロと見渡して、そこがどこか把握しようと努めた。
 上を見ると、見たことのある景色が浮かんでいる。ここはどうやら、あの落ちかかった谷底らしい。
 森の中は真っ暗で、灯りは月と星が頼りだ。皆のところに戻ろうにも、どちらからきたのか、どちらへ行けばいいのかさっぱり解らない。
 戻ってきて早々また新たな難問かと頭を抱えていると、叫び声が聞こえてきた。
「……こだ! 望美……!」
「九郎さん?」
「望美! どこにいる!!」
 必死になって探している声は、紛れも無く九郎の声だ。さっきまで聞いていた少年の声音じゃない、青年の声音。
「望美!!」
「九郎さーん! 私ここです!」
 試しに、呼びかけに応じてみた。こういう真っ暗で灯りが少ないときはお互いが動かない方がいいと言ってた気がするので、望美はその場に立ち尽くしていた。待っていればきっと九郎がやってくるだろう。
 望美が思っていたよりも九郎がやってくるのは早かった。望美が呼びかけに応えてから間もなく、走ってくる九郎の姿が目に見えたくらいだ。
「望美!」
「九郎さん、あのここって…」
「この馬鹿!!」
 そして開口一番、怒鳴られた。
 会った途端に馬鹿呼ばわりって……ここは普通感動の再会じゃない?
 さすがにムッとした望美も言い返そうと口を開いたが、九郎がいった言葉に思わず口をつぐんでしまう。
「お前、この三日間一体何処にいたんだ!」
「え?」
 てっきりあの時刻に戻してくれたものだと思っていただけに、その言葉は意外なものだった。
「お前の悲鳴が聞こえた直後に、駆けつけてみたがお前はどこにもいなくて、白龍も神子の気が消えたと言って混乱しているし、三日間俺たちがどれほど心配したと思ってる!」
「は、え、あの、……すいません」
 あまりの剣幕に思わず謝ってしまう望美だった。
「白龍が急に神子が戻ってきたというから探してみれば、何事もなかったかのようにお前は…!」
「九郎、その辺で止めてあげましょう。彼女だって混乱してますよ」
「そうそう、まずは休ませて上げるのが先決だろ。話を聞くのはそれからだっていーじゃん」
 後から追いついた弁慶、ヒノエ、それに他の皆の姿を見て、本当に帰ってきたと実感した望美は、安堵のあまりその場にへたり込んでしまった。
 気を張りつめていた反動か、安堵した途端にぽろっと涙がこぼれる。
「あーあ、女の子を泣かすなんてサイテーだね」
「九郎さん! 先輩を泣かさないでください!」
「九郎殿、幾ら心配したからって、望美を泣かすことは無いでしょう」
 軽蔑したように言うヒノエ、マジギレしそうな譲、静かに怒っている朔に圧倒されて、九郎は怯んだ。
「お、おい…? 確かに強く言ったが、何も泣くことは無いだろう」
「ち、違……!」
 首を振って否定しても、涙は留まることを知らない。
 うっと、九郎は後ずさった。これ以上望美に泣かれると、立つ瀬無いのはさすがに九郎にも理解できたからだ。
「わかった、俺が悪かった! 謝るから泣くな!」
「うぅ……」
 望美は一拍溜めた後、盛大に泣き始めた。
 九郎が白い目で見られたのは言うまでもない。
「謝ったのに何故泣く!」
 今度は混乱したように叫んだのは九郎だった。そうして夜は更け、いったん邸に戻ることにしたのだった。





   20060122  七夜月

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