【参】 その日の放課後、母親からなるべく早く帰ってくるように言われていた敦盛は、本日も部活を休んだ。 それにより部内からは多大なブーイングが飛んだものの、敦盛の身体も病み上がりで事情が事情なだけに皆渋々といった形で許してくれた。敦盛は苦笑しながら鞄を手に取り立ち上がると、不意に望美の視線が敦盛の鞄からはみ出ている鉄扇に向けられていることに気付く。ただジッと、朝のヒノエと同じように鉄扇を見ている。そしてそれは朔も同じだった。 「神子、朔殿。どうかしたのか?」 敦盛が尋ね返すと、思いのほか強い口調で朔が敦盛を見つめ返して来た。 「敦盛殿、それは何?」 言われて敦盛は鞄から鉄扇を取り出し開いて軽く開いて見せた。 「鉄扇らしいのだが、教室内にあったものを発見して弁慶殿に言ったら、私が持っていたほうがいいという話だったので、家に帰ったら飾ろうかと」 「……そう、そうなの」 望美は黙ったまま、教室を出て行った。その様子に困惑している敦盛は朔を見て眉根を寄せる。 「神子は一体……」 「気にしないで、敦盛殿は何も悪くないのだから」 朔は笑っていた。だが、普段見ないような妖艶な笑顔。背中がぞくりと身震いする。敦盛は何とか話題を変えようと口をあけたり閉じたりした。 「そういえば……この鉄扇はヒノエの兄の湛快殿の鉄扇だと聞いたが……」 「……どうして貴方がヒノエのお兄さんの名前を知ってるの? ここではタブーになっているはずよ」 「え、いや……とある方に聞いて。チモ見沢には色々と秘密があるんだろう? それを少し聞いただけだ」 敦盛は慌てたように付け加えたが、自ら地雷を踏んでしまったと気付くのは朔の態度の変化であった。 スッと、朔の目が細められ、口からはくすくすくすくすと絶え間なく笑い声漏らされる。 「……そう、貴方聞いてしまったの。誰かしら、貴方にそんなことを話したのは……ああ、あの歳若い刑事ね。やり手とは言えまだ赴任したてで若いから見逃していたのに、ベラベラベラベラ余計なことを喋って。お仕置きしなくちゃね」 「え、朔殿……?」 壊れたオルゴールのように、朔の口から漏れてくるのは、同じリズムの笑い声。お仕置き、お仕置き……繰り返される言葉はとても楽しそうで、敦盛はそんな様子の朔に怖くなって鞄を引っつかむと、逃げるように教室を出た。 【参】 了 【四】 20060711 七夜月
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