【壱】 プルルルルルルと課内に電話の発信の音が響き渡った。暑い暑いと言いながら将臣は口にカキ氷を運んでいて、電話には見向きもしない。 「……有川さーん、お電話ですよ。何だか切羽詰ってるみたいなんスけど」 電話に出た係りの者から名指しで言われ、スプーンを加えて冷たさの余韻を味わっていた将臣には少し不服である。 「あ? イタ電じゃねーだろうな?」 「さぁ、それは解りませんけど、とにかく出てくださいよ。もし事件とかだったら警察の不祥事になっちゃうじゃないッスか」 「わーかったよ」 内線で飛ばしてもらって、もしもし?と機嫌を改めるでもなく低めの声で出ると、聞き覚えのある声が電話口でもしもし?と尋ね返してきた。 さすがに何度も会っていれば声を聞くだけで誰かはわかる。 「お前、敦盛? どうした、何かあったのか?」 『将臣殿、どうか助けてください……!』 将臣は目と手で合図して隣にいた奴に逆探知を取らせる。心得ていたのか、指示された人間も一つ頷き返すと、ヘッドホンを着け急いでパソコンを操作し、電話回線を逆探知し始めた。 「落ち着け敦盛、何があった?」 『早く……早く止めないと弁慶殿とヒノエが……!』 「解った、マジで落ち着け敦盛! お前どこに今居るんだ?」 『私は……い、……こに……で……!』 ザーザーッとノイズのような音が混じって、敦盛の声が段々遠くなる、厳しい表情で逆探知をとっている人間を見ると、同じく眉間に皺を寄せて厳しい顔をしている。 「敦盛! 聞こえねぇよ! 何だ!」 『……から、……ど…が……助け……』 ノイズはどんどん酷くなる、将臣は舌打ちをこらえて必死になって電話口の敦盛に呼びかけ続けた。 「敦盛! 返事しろ敦盛! 敦盛!」 『………………』 言葉はもう聞こえない。激しい電磁波の音だけが耳に障る。 ガチャン。 ツーツー。 虚しい電子音だけ残して、電話は切れた。 将臣は「くそっ!」と机を叩く。 「逆探知取れたか!?」 「なにぶん急だったもので正確な位置は把握できませんでした。神社方面からとしか……」 「急いで地図を用意しろ! チモ見沢の地図だ!」 神社方面ということは、敦盛の自宅ではない。敦盛の自宅とは正反対である。部下が持って来た地図を厳しい顔をしながら見続けた将臣は、神社から下った坂にある公衆電話に目が止まった。証拠は無い。あるのは確証。これは一か八かの賭け。 「いいか、チモ見沢の派出所に連絡だ。いますぐにこの公衆電話に向かえ。俺もすぐに出る!」 椅子にかかってた上着を肩に引提げて、将臣は走りながら車に飛び乗った。 【壱】 了 【弐】 20060722 七夜月
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