あけましておめでとうございます
 今年も「cherish」を宜しくお願いいたします。
 二〇〇七年 七夜月




















初詣


 境内の中から本殿の太鼓の音が聞こえて、楼門が開いた。すると、歓声とも感嘆ともつかない声が辺りから上がって、一斉に同じ言葉が飛び交う。
「明けましておめでとう!」
 今日は年越し。みんなとこんな形で年を越すことが出来て嬉しい。
 せっかくなのだからと初詣に近所の神社までやってきたのはいいけれど、案の定人が多くて人波に揉まれてしまいそうだった。一応携帯は持ってきているが、この人数ではいざというときに使えるかどうか解らない。
 とりあえずはぐれたときの場所と待ち合わせ場所だけ決めて、わたしたちは開かれた門の中へ入った。
「すごい人なのね……」
 感嘆の声を最初に上げたのは隣を歩いていた朔で、わたしもそれに頷きながら斜め後ろにいた将臣くんに振り返った。
「去年もこれくらいだったよね? ほら、クラスの友達と来たでしょ?」
「だっけか? よく覚えてねぇよ」
「譲くんは覚えてるよね? 一緒に行ったし」
「はい、でも去年より今年の方が多い気がしますよ」
 去年と同じく眠そうにあくびをしている将臣くんをジト目で睨んでから、気を改めて今度は譲くんに尋ねると、ちゃんとした回答が返ってきた。
「まぁまぁ、去年とは違って俺たちもいるし、今年は増えてるのもしょうがないかな〜なんて」
 景時さんがわたしを見て、ね?と同意を求めてくるので、わたしも力強く頷き返した。
「新年を祝い、今年もいいことがあるようにと願うのは、誰もが一緒でしょう。人はみな、幸せを願うものですから。それは決して悪いことではありません」
 九郎さんと一緒に将臣くんの後を歩いていた弁慶さんも、同意してくれる。弁慶さんの隣を嫌そうに歩いているヒノエくんは嘆息しながらわたしの前を歩いている白龍に声をかけた。
「神様だって暇人じゃないんだぜ? 誰も彼もの幸せなんか叶えられないだろ。幸せってもんは自力で掴むものだと俺は思うね」
「ヒノエ、仮にも神職者がそのような発言をするものではない。人間は無力ゆえ、神の力を求めるのだと思う」
 ヒノエくんの更に隣を歩いている敦盛さんが異論を唱えると、一番後ろで控えるようにして歩いていたリズ先生が頷いた。
「敦盛のいうことも、ヒノエのいうことも両方正しい。己の幸せを掴むために努力することは大切だ。しかし、時折自力ではどうにもならないこともある。そういった場合、神に頼るのは仕方なきこと。人は、何か頼るべき対象を見つけないと不安になるものだ。その不安を払拭をするために、神という存在がいるというのも事実であり、そして、努力を行った上の行為は、否定してはならない」
「リズヴァーンの言うとおりだ。わたしは人が縋るために存在するもの。縋ることで彼らが楽になるのなら、幾らでも名前を使われて構わない。人の幸せこそ、わたしの幸せだから」
 先頭きって歩いて白龍がすぐ後ろを歩いていたわたしに向かって優しく微笑んだ。
 だけど、すぐにハッとしたように前を向くと、すぐにも顔を輝かせ始めた。この兆候は少しマズイ。白龍は気になるものはとことん追いかける。
 そして、目をキラキラとさせながらわたしに聞くのだ。そう。
「ねぇ、神子! あれは何?」
 と。
 しかし、今日はその言葉が出なかった。白龍の心がわたしを通してではなく、直に見ることを選んだのだ。
「神子、少し見てきてもいい?」
「白龍! ちょっと待って、じゃあわたしも一緒に行くから。譲くん、あとお願い!」
 慌しいながらも譲くんに頼んで、歩き出した白龍の後をわたしは追う。
 だけど、人波のせいで上手く歩けない。元々足の長さも違うから歩幅だって違うし、白龍は気になるものを見つけると、時折目先のものしか見えなくなってしまう。彼はわたしの居場所が解るから尚更だ。白龍との差はどんどん広がってしまい、とうとうわたしは白龍の姿を見失ってしまった。
「嘘……どこ行っちゃったの? こっちかな?」
 白龍が歩いていった方向を勘で決めて、わたしはそちらへ足を向けた。

(将臣・九郎・弁慶・ヒノエ・敦盛)

 ・本殿前階段
 ・おみくじ
 ・舞殿
 ・御本殿
 ・神酒拝戴所
*遙か3シリーズ(無印・十六夜記・迷宮)全体のネタバレ有りです


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